第4話
隊長選出部内マッチ当日。部員は全員、格納庫に整列していた。並んでいる部員たちの3歩前に、零花ら隊長候補者6人が審査員たちに向き合っている。
「これより部内マッチを開始する。チーム分けは昨日くじで引いた通り。試合は10分後、3試合同時に開始、それまでチームごとに打ち合わせの時間とする。それでは、行動開始」
監督が告げると、それぞれのチームに別れ、所定の場所で作戦会議を始める。振り分けられた場所にはホワイトボードにペンやマグネットなど一式が用意されていた。零花は緊張した面持ちで話し合いを進める。
「そ、それではブリーフィングを始めます。中隊長を務める藤美野です、よろしくお願いします」
中隊は、4個小隊、48人で構成される。今回はこれにオペレーター4人を足した52人が一チームとなる。零花は、51人をうまくまとめなければならない。
「まずは副隊長を決めたいと思います。誰かやりたい人とか、いませんか?」
控え目な様子で副隊長を募る。すると、
「私がやろう。あまり交流がない人と組んでも意思疎通が怪しくなるだろう」
手を挙げたのは滝沢優雨。同じ中隊の3年生で仲の良い先輩である。よく知る人が進んで引き受けてくれたことに零花は安堵する。
「では、副隊長は滝沢先輩にお願いします。引き続き、最初の試合の相手について―」
時間もないため、すぐに試合についての打ち合わせに入る。今回の隊長候補は零花の他の5人は4年生2人、3年生2人、2年生1人。四年生は現隊長の大河内恵麻と現副隊長の八乙女瑠依。3年生は高橋青葉と遊佐茜。いずれも現中隊長。2年生は鶴田藍。こちらは副隊長の推薦。2年生の2人以外の誰が隊長になってもおかしくない実力を持っている。
「そろそろ時間なのでここまでにします。勝ち負けは重視されないので、そこは気にせず頑張りましょう。私の出世なんかは気にしないで、楽しんでください」
零花の発言に笑い声がこぼれる。
「中隊長の言うとおり、あまり気負わずに行こう。2年生の指揮で戦えるなんて滅多にない。いい経験だと思って臨もう」
滝沢が行くぞ! と言うと、みんながオー! と返し、各々の機体へと向かって行った。零花も向かおうとすると、滝沢からちょっと、と呼び止められた。
「零花もあんまり気負うなよ? まだ肩に力が入ってるぞ」
そう言って軽く肩を叩いた。
「すみません、やっぱり、どうしても緊張してしまって……」
「月並みで申し訳ないが、普段通りやれば大丈夫だ。高校では中隊長だったんだ。きっとできる。まあ、『鬼神』と呼ばれた実力は、今回は拝めなさそうだが」
そう言うと自分の乗機に向かう滝沢。
「頼りにしてるぞ、中隊長」
「……はい!」
零花も再び歩き出す。零花にとって、とても長い5日間が始まる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「本日の試合はこれにて終了。全員降機し、整列」
監督の号令がかかり、1日目が終了した。零花はなんとかやり通したものの、変な汗かきまくり息切れまくりで酷い有様になっていた。
「お疲れ、零花。いい指揮だった」
機体を降りると滝沢からの労いの言葉。並んで歩きながら会話する。
「青葉相手に引き分けに持ち込むなんて凄いじゃないか」
「たまたまですよ。採った戦術が偶然噛み合っただけで……」
「運だって実力の一つだ。必要な局面で必要なカードが引ける運は重要だ。十分誇っていいと思うぞ?」
「はは……ありがとうございます。でも今回だけかもしれませんし、気を抜かずにいきますよ」
今回の反省をしつつ集合場所に向かう2人。まだ1日目。まだ始まったばかり。零花はそう自分に言い聞かせるのだった。
今日の部活が終わった後。滝沢は誰かと話していた。
「彼女、零花は思ったより悪くないですよ。粗があって、経験不足ですが、筋がいい。あなたの言った通り、しっかり育てれば化けますよ、きっと。まだ一試合しか見てませんが、そう思わせるものがあります。あなた相手にも善戦するかもしれませんよ、大河内隊長」
「そうか、それは最終日が楽しみだ。優雨は引き続き零花の観察とサポートを。最初に伝えたように、1日終わりに報告を」
「了解です、隊長」
零花の今日の戦績
対 高橋 青葉 引分
「レイ、随分調子がいいみたいじゃないか?」
「ここまで相手した先輩たち全員に引き分けとか、すごいじゃん!」
「これはもしかすると、もしかするかもな」
3日目が終了し、鶴城ら3人と話している零花は、順調に結果を残していた。さらに2人の先輩を引き分けに持ち込んだのである。
「明日やる鶴ちゃん、すごいビビッてたよ。『こんなにやるなんて予想外だった』って頭抱えてた」
「そう思われてるなら光栄? なのかな?」
そんなふうに言いながらも、あと残り2日。気を抜かずに行こうと思う零花だった。
零花の2日目、3日目の戦績
対 遊佐 茜 引分
対 八乙女 瑠依 引分
「かーっ! 負けだ負け! だいたい先輩達とまともにやり合うヤツ相手に勝負なんて無謀だっての」
4日目。零花は部活が終わった後に鶴田と休憩スペースで話していた。
「何だってあの先輩達相手に引き分けに持ち込めるんだよ。何食ったらそうなれるんだ……」
「別に、食べてるものは普通だけど……。鶴ちゃんだって先輩相手にかなり食い下がってるじゃない。八乙女副隊長から推薦されてるんだから、もっと自信持っても……」
「フジミーから言われるとイヤミにしか聴こえん……。でも褒め言葉として受け取っとくよ。明日で最後だ、お互い頑張っべ」
「うん、頑張ろう!」
「フジミー、明日大河内隊長とだろ? いい成績残せるように応援してるよ」
「そっちこそ、明日は八乙女副隊長との試合、頑張ってよ」
互いに励まし合って別れた。休憩スペースを出てすぐに話しかけられた。
「藤美野さん。明日の試合、頑張ってください。応援、してます」
「しっ、進藤さん⁉ あ、ありがとうございます。頑張って勝つ……まで行かなくとも、なんとかいい勝負にしますよ」
互いに仄かに顔を染めながら立ち話する2人。身長差から、自ずと南美が零花を見上げる形となる。必然的に上目づかいとなるため……。
「……っ!」
ほんのり赤い頬、潤んだ目、恥じらいから動く瞳。周りには誰もいない。壁にでも押し付けて……。
(ダメだっ。そんなこと、絶対良くない)
そんなことができれば1年間もこんなもどかしい関係になっていない。このヘタレ。意気地なし。
「と、とにかく、明日は頑張るので、期待しててください」
明日は最終日。長い戦いがようやく終わる。
零花の四日目の戦績
対 鶴田 藍 勝利
最終日。ついに隊長との対戦、だったが……。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
「……れにて……別……ッチを終……」
「……長、隊……、…………、……花、零花!」
「…………っ! は、はいっ!」
「もう終わったぞ? 大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
モニターに滝沢の顔が映り、心配する。
「なんとか、大丈夫、です……」
そうは言うものの、呼吸は浅く、顔色も良くない。相当ストレスがかかったと見える。
「1人で降りれそうか? もし難しそうなら誰か……」
「いっ、いえ! 大丈夫です、ほんとに」
そう言うと、そそくさとハッチを開けて機体を降りた。問題なく下まで降りることができたが、足元が覚束ない様子で歩いている。なんとか肩を借りて集合場所まで歩いていき、整列する。
「今日までよく頑張った。結果は明日発表する。今日はゆっくり休むように」
監督の労いの言葉を最後に、今日は解散となった。
ところ変わってセクター内のファミレス。零花は武蔵ら分隊の仲間たちとお疲れ会をやっていた。
「大河内先輩相手にあそこまでやるなんて、やるじゃないか」
「負けたとはいえ、レイの良さは出てたと思うから、評価はしてもらえるさ」
結局大河内には負けた。それでも得るものはあったのか、今は満足しているようだ。
「せっかくのお疲れ様会なんだから、早く注文しようよ~」
和佳子に急かされ、各々注文しはじめる。明日のことなど、気にもせずに。
零花の五日目の戦績
対 大河内 恵麻 敗北
「さて、今回の隊長はどうするか……」
「悩みますね、監督」
一方その頃。会議室ではこれまでの試合内容から、隊長を決める話し合いが始まっていた。
「誰も彼も魅力的だが、皆の意見を聞こう」
この会議はこの部のこれからを左右するもの。緊張が走る。誰を指揮官にするのか。それがこれから決まる。
翌日。運命の時が来た。周囲では誰が選ばれるのかで話題が持ち切りだ。ガヤガヤしていたが、監督ら、審査員がやってくると、静まり返る。
「それでは早速、発表させてもらう。今回の部内マッチで隊長に選ばれた者は……」
緊張の瞬間。一呼吸置かれて告げられた名は。
「藤美野零花」
「え」
全員が零花を見る。当人は間の抜けた声をあげるしかなかった。
「え?」




