第3話
大河内隊長から衝撃的なことを告げられた後、しばらく零花は青い顔でみんなから心配された。集合した時などは、今にもゲロを吐きそうな様子でいたため、和佳子からバケツを預けられた。全員がいる中で再び宣言されたときはより酷くなったが、幸いにもそれを使うことはなかった。マシにはなったが、依然として顔色は良くない。解散後、1人でベンチに座って休んでいたが、声をかけられた。
「なんだか大変なことになったわね……」
「あ、五十沢先輩」
五十沢由芽。大学3年生。零花を担当する整備士の1人。零花が高校時代付き合っていた元カノ。別れた理由は、五十沢が卒業して県外の大学に行くからであり、仲が悪くなったからではない。当人達も別れて何年もしない内に再会するとは思わなかっただろう。現在は先輩と後輩であり、良き友人である。
「大丈夫? 無理してない? 大河内先輩の推薦みたいだけど、無理やり……なんてことはないわよね?」
「そんなことはないですよ。確かに、言われたときは驚きましたけど、それだけ期待してくれてるってことなので、頑張るつもりです。まあ、流石にいきなり隊長っていうもの無理だし、なれるわけがないので、先輩方の胸を借りるつもりで臨みますけどね」
今後のためだと大河内も言っていたこともあり、告げられた当初よりは深刻に考えていないようだ。緊張は変わらずしているようだが。
「時間はまだあるので、今から準備しときますよ。ここで結果を残せば、中隊長補佐くらいは狙えると思うので」
落ち着いたのでもう戻ります、そう言うと立ち上がってロッカーへ向かう。
「大丈夫ならいいのだけど……。本当に無理はしないでね?」
「ご心配ありがとうございます。無理しない程度に頑張るので、応援お願いします」
振り返って会釈する零花。その背中を見つめる五十沢の眼は少し熱っぽかった。
着替えが終わった零花は休憩スペースで分隊メンバーと話していた。
「レイ、随分と愉快なことになったな。大隊長なんてガラじゃないだろ」
「それはそうだけど、期待してくれてるってことだと思うし、結果出せばそれなりの役職はもらえるかなって」
「もしそうなったら、私たち、幹部付きの分隊か小隊になるってこと? 大出世じゃん!」
「うまくいけば、の話でしょ? 期待し過ぎたせいで、駄目だったとき落ち込んでも知らないよ。まあ、零花の実力を疑ってるわけじゃないけど」
好き勝手言って……とは思うものの、このくらいくだらないことを言ってもらった方が気が楽になる零花であった。やいのやいの言っていると、グループが二つ近づいてきた。平津と黒星の分隊である。
「やあ零花。その様子だと緊張はだいぶ取れたみたいだね」
「さっきは本当に心配したぞ。あの場で倒れるんじゃないかとひやひやしたんだからな」
冷やかしではなく様子を見にきたようで安心した、と思ったら。
「さっき聞こえてた話からすると、私たちが上へ行けるかどうかは零花にかかっている、ということでいいのかな?」
「期待半分くらいで待っているぞ、藤美野」
「う、うん……。まあ頑張るから見ててよ」
お前らもか、と思う零花であった。
「残念ながら私も美夜もこれからやることがあるからここで失礼させてもらうよ」
「また明日だな」
言うだけ言って帰っていく平津と黒星たち。こいつらぁ……と思う反面、2人なりの励まし、なのかなと思う零花だった。
隊長選出の部内マッチは、選出者六名全員による総当たりで行われる。詳細なルールは以下の通り。
1. 中隊戦で実施する。それぞれのメンバーは戦力が偏らないように実力毎にグループ分けをし、くじによる選出となる。
2. 戦闘は実機ではなく、各々の機体のコックピットに接続したシミュレーターで行う。
3. 1試合30分、先に相手を全滅させた側の勝利とする。時間内に決着がつかなかった場合は引き分けとする。生き残っている数では勝敗を決めない。
4. この部内マッチは五日に分けて行う。3試合を1度に行うこととする。
5. 勝ち点方式ではなく、審査員による評価によって隊長を選出する。審査員は、監督、コーチ3名、部長の五人。
6. 評価内容は、指揮の様子、指揮の内容、判断力。勝敗も加味するが、比重は低い。候補者の個人技能は評価対象外。
この六点を踏まえて行われる。なるべく平等に、誰にでもチャンスがあるようにルールが設定されている。零花も言っていたが、この部内マッチで隊長に選ばれなくとも、結果を出せば2年生でも幹部に選ばれることもある。実際2年枠に選ばれた者はそれを狙っている。零花は無事に幹部に選ばれるのか。それとも……。波乱に満ちた大隊長選出部内マッチが迫る。
おまけ
IAS-03 エルフⅢ
帝都重工製重TASK。大学に入学してからの零花の機体。外見はエルフⅡとほぼ変わらないが、内装がアップデートされており、性能は別物。速度も防御力も上がっている。エルフシリーズは現在エルフⅧまで出ているが、零花は持っていない。理由は最新モデルであるため、かなり高額だから。本人も将来的には乗りたいと思っている。ちなみに零花はエルフシリーズのヘビーユーザーであるため、メーカーの帝都重工から認知されている。公式販売店なんかに行くとお得意様といった感じで歓迎してくれる。シミュレーターによる試乗も薦められるため、買わないけどちょくちょく店に顔を出している。




