第2話
翌日。講義が終わり、部活の時間。零花は小隊規模での練習をしていた。
「レイ、そっちに行った!」
「わかった、対処する」
TASKの小隊は3個分隊からなる。相手は同じ2年生の小隊だ。
「よし、ここ!」
相手の進行方向の先の地面にキャノンで榴弾を撃ち込み、土砂を巻き上げ視界を塞ぐ。
「平津、頼む!」
「OK、任された!」
そう言って飛び出した1機の軽TASKが動きを止めた相手に肉薄する。そのまま至近距離から両手に持ったハンドガン2丁で頭部にペイント弾を浴びせる。撃破判定。次に移ろうとしたところ、キルした相手の後ろからさらにもう1機が姿を現す。
「……っ!」
一瞬対応が遅れた。そこを狩られる……前に飛んできた狙撃によって頭部に直撃。間一髪、助かった。
「流石だな、黒星。いい腕だ」
「礼なら終わった後で。今は集中してくれ、小隊長」
「おっと、すまない。そうさせてもらうよ」
そうは言うが、小隊長の平津からは余裕が見える。平津だけではない、小隊全体に余裕がある様子である。それもそのはず、この第2中隊所属第3小隊はかなりの強者たちで構成されている。小隊長で第4分隊長の平津、第5分隊長の黒星、そして第6分隊長の藤美野。その3人とメンバーたちは、期待の新人として入部し、隊長からまとめて運用するために同じ小隊に配属された。
「武蔵、前に出るぞ」
「了解。野守、和泉、援護よろしく」
「任せろ」
「かしこまり!」
零花たちも負けじと動き出す。勝負がつくのも時間の問題だろう。
数分後、3個分隊の12人は休憩していた。各々飲み物を飲んだり、雑談をしたりして息抜きをしている。分隊長3人は談笑していた。
「やっぱり零花の技量は凄まじいな。重量機であれだけ動けて細かいテクニックもある。そしてそれら全部が独学ときた。まるで漫画の主人公だよ」
平津来夢。軽TASK乗り。搭乗機持前のスピードで相手を翻弄する。得意とするのは近距離射撃戦で、相手の弾は避けつつ自分の弾は当てるスタイルを取る。格闘戦も問題なくこなせるため隙が少ない。あとイケメン。背が高く、切れ長の目で、髪型はウルフカット。学内外で人気がある。
「そういう平津も、さらっととんでもないことを熟しているだろう。毎度思うが、あれはどうやっているんだ? あんな距離で撃ち合って自分の弾だけ当てて相手の弾は躱す……。簡単にできる芸当ではないぞ」
黒星美夜。中TASK乗り。スナイパーキャノンによる狙撃を最も得意としている。本人の高い技術と機体のカスタマイズによって高精度の狙撃が高頻度で飛んでくるのだから、相手からすると厄介極まりない。乗機の機動性も高く、射撃地点を毎回変えるため、どこから弾が飛んで来るかわからないせいで非常に怖い。これらのことから、ついたあだ名が「魔弾の射手」。そして身にまとうミステリアスな雰囲気により平津同様人気がある。髪型はショートボブ。
「美夜だって正確な狙いの弾を続けて当てるんだからかなり凄いよ。あんなのそうそう真似できないよ」
そして零花。零花もその裏表がなく、人当たりが良い性格からかなりの人気がある。というかこの小隊そのものが人気であり、それぞれ個人を推してる者、各分隊を推してる者、この3人のような特定の組み合わせを推してる者、小隊全体を箱推ししてる者など様々いる。まるで男性アイドルグループのようなモテ方である。学内にファンクラブも存在するが、本人たちはまだ知らない。
こんな調子で話し込んでいると、呼び出しがかかった。
「おーい。平津、黒星、ちょっといいか?」
「む、先輩から呼ばれたか」
「話の続きはまた後でだな。藤美野、ちょっと平津と行ってくる」
零花は手を振り見送る。その少し後、零花も声を掛けられる。
「藤美野さん、お疲れ様です。飲み物、どうぞ」
「あっ、進藤さん……。ありがとう」
進藤南美。零花と同じ2年でTASK部マネージャー兼オペレーター。ゆるふわウェーブのロングヘアーでライトブラウンに染めている。零花の片思いの相手。
「今日も調子、良さそうだね」
「うん、私もエルフⅢも絶好調、だよ」
「………………」
「………………」
会話が続かない。2人とも、顔を赤くしもじもじして、時折相手の顔をチラチラ見ている。たまたま目が合うとそろって顔をそらし……といったことを繰り返している。片思いしてるのは零花だけではなかった。南美も零花に片思いをしていた。所謂、両片思いというヤツである。遠巻きに見ている先輩たちは、あの二人は何をやっとるんだ、とでも言いたげな目をしている。心の中では、とっととくっつけ、見ていてじれったい、見てると砂吐きたくなる、ブラックコーヒーが甘く感じる、など思っており、心中穏やかではない。
「……お姉ちゃんたち、何やってるの?」
そこに入ってくる人影。
「あ、ああ曙実っ! もう来てたのか」
「早めに着いたから、覗いてみたのよ」
東海林曙実。零花の従妹で中学2年生。星鷹女子付属中学に通っている。TASK部所属で、U-16日本代表の1人。軽TASKに搭乗する。TASKの操縦技術は非常に高く、大学生にも劣らない。そしてツンデレ。
「こ、こんにちは、曙実ちゃん」
「……ども、南美さん」
南美になにか思うところがあるのか、ジト目気味で挨拶を返す曙実。
「今日の練習は隣の演習場だったっけ?」
「うん。準備とかあるし、ちょっとお姉ちゃんの様子見に来ただけだから、もう行くね」
そう言うとそそくさと去っていく。
「行っちゃったね、曙実ちゃん」
「うん、そうだね」
「お2人さん、取り込み中失礼するよ」
曙実がいなくなったのを見計らったように話しかけられる。
「大河内隊長……何か御用ですか?」
「ああ、これは後でみんな集まった時にも言うことなんだが、先に伝えておこうと思ってな」
一呼吸おいてから口を開く。
「2週間後の隊長選出の部内マッチ、2年生枠の1人に藤美野、お前を推薦しておいた」
「…………………………へ?」
だいぶ時間を置いて出た抜けた声。
「んんんなななんて言いました?」
あまりにも動揺して言葉に詰まる。顔も心なしか青い。
「聞こえなかったか? 藤美野零花、お前は今回の大隊長を決める部内マッチに出るんだ」
「あっ……なっ……え、えぇ……」
まともな言葉も出ない零花。顔が更に青くなる。もう吐きそうだ。
「は、ははは……はははははは…………はい……がんばります……」
もう笑うしかない、といった様子。そりゃそうだ、突然こんなことを言われればこうもなろう。
「まあそう緊張するな。2年の時はお試しのようなものだから、来年に向けての予行演習だと思って参加すればいい」
「あっ……はい、わかりました……」
零花はもう諦めたようである。
「お前ならいつも通りやれば大丈夫だ。心配することは何もない」
ではまた後程、と言うと大河内は去っていった。
「そう、お前が心配することは何もない。なんにも、な」
去り際に呟いたことは2人に届かず、そのまま空気に溶けていく。
「藤美野さん、大丈夫? 顔が青くなってるけど……」
「だっ、大丈夫だよ、ちょっと驚いただけだから……」
そこでふとある考えが過る。
「この間の期待してるって、このことだったのかな……。怖いなぁ、隊長以外の先輩もきっと出るよなぁ……」
そうは言っても出ることになってしまったからには覚悟を決めるしかない。零花は大人しく腹を括った。
ここから、零花の思い描いていたこれからの人生が大きく狂い始めることになる。本人がそのことに気づくのは、だいぶ時間が過ぎてからになるが。




