第1部 ■■■■の■■ 第1章 第1話
東北大会から1年10か月後、2118年 4月
あの試合から数えて2回目の春を迎えた。新入部員も入ってきて、藤美野零花は大学2年生になっていた。あの試合の直後、1人でいたところにその試合を見ていたという2人組が来て、うちの大学に来ないかと誘われたのである。1人は当時3年生の隊長で、去年の3月に卒業した先輩。もう1人が、当時2年生で隊長の側近をしていた、現在隊長となっている大河内恵麻であった。負けて自信を無くしていたところに、「全国にも届くその実力を自分たちに貸して欲しい」、なんて言われたら、ホイホイ着いて行ってしまうのも無理のない話である。だが騙された訳ではなく、純粋に戦力として求められたのであり、入部した時はとても歓迎された。そんな訳で、藤美野零花は、東北有数のTASK強豪大学、星鷹女子大学に入学したのだった。
Tactical. Armament. Standard. Knight.……戦術武装規格騎士、英単語の頭文字をとってTASKと呼ばれるそれは、全長10~20mの人型機動機械である。なぜ騎士なのかといういと、最初期の機体が、全身鎧を身に着けた中世騎士にそっくりであった為である。現在ではあまりそのような見た目の機体はないが、略称が呼びやすく、定着した為そのまま呼ばれている。
このTASK、存在するのは競技用と作業用がほとんどであり、軍用はない。あっても違法TASKを取り締まる治安維持用ぐらいである。登場当初、軍事転用する動きもあったが、各国の政治家や民衆から、「こんなもんで戦争したら人類が滅ぶ」と猛反発され、どこの国も軍用機として採用していない。したら他の国から批判だの制裁だの袋叩きにされるからである。だが、一部の金があるテロリストは持っているとかいないとか。
零花は部活が終わり、自分の機体をハンガーに戻し終わった直後であった。
「零花、おつかれ~」
「おつかれ」
挨拶をしてハンガーを出ていく同期であったが、零花は振り向いて自分の機体を見上げ、今までのことを振り返っていた。IAS-03 エルフⅢ、大学に入ってからの零花の愛機である重TASKである。TASKは、10~13mの軽TASK、14~17mの中TASK、18~20mの重TASKに分けられる。零花は始めた時からこの重TASK、エルフシリーズに乗り続けていた。一目見たときから惚れ込み、小学4年生から始めたこの競技。気がつけばもう9年も経っていた。
「藤美野、どうかしたか?」
「大河内隊長、お疲れ様です。ちょっと、今までのことを思い返してました」
大河内恵麻。零花をここに誘った一人。現在4年生。入学当初から面倒を見ていたため、師匠と弟子のような関係になっている。
「今までのことか。そういえば、初めて会った時は酷い顔だったな。涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、目も鼻も真っ赤で……」
「あの時の話は止めてください……。恥ずかしいんですから……」
顔を赤くして止めさせようとしてはいるが、あの出会いがなければ自分はここにいないため、零花はとても感謝しているので満更でもない様子だ。
「藤美野、お前には期待しているんだぞ。このまま順調に行けば、大隊長だって夢じゃない」
「大隊長だなんて、そんな。私は大河内隊長の様にはなれませんよ……。それに、そもそも大隊長なんて向いてないですし」
「別に私と同じにはならなくていいんだ。お前のやり方でやればいい。それに、高校までは中隊長だったんだ。規模は大きくなるが、下には副隊長や中隊長がいるから、みんなが支えてくれる」
そう言う大河内の目は優しく、慈しむようだった。
「レイ、来ないのか?」
大河内と話し込んでいると、ハンガーの出入口近くから零花を呼ぶ声がした。
「すまない、呼び止めてしまっていたか?」
「いえ、大丈夫です。お話ありがとうございました。それでは、失礼します」
一礼して小走りで友人たちの元へ向かう零花。それを大河内は見つめていたが、そこにまた別の人影が歩み寄ってきた。
「本当によろしかったんですか? 彼女で」
「広瀬か。ああ、彼女ならやってくれるさ」
広瀬奈津実。3年生。中隊長の1人で、大河内の側近の1人である。
「むしろ彼女にしかできないこともあるかも知れんぞ」
広瀬に向き直りながら言う。
「ですが、その、何というか、まだ経験が足りないと思うのですが……」
「経験などはこれから積めばいい。何かあれば我々が支えればいいことだ」
「……今から変える気はないのですね。わかりました、でしたらその方向で進めさせていただきます」
「頼む。くれぐれも、本人に気づかれないようにな」
「はい!」
広瀬が一礼して去る。
「本当に、お前には期待しているぞ」
そう言う大河内の視線の先には、零花の機体があった。
友人たちと合流した零花は歩きながら他愛のない話に花を咲かせていた。この友人たちは、TASKで零花が分隊長を務めている分隊のメンバーでもあった。
「レイ、この後はどうする?」
零花のことをレイと愛称で呼ぶのは鶴城武蔵。零花の幼馴染で、分隊では零花と共に重TASKで前を張る前衛である。
「カラオケとか行っちゃう?」
そう提案するのは和泉和佳子。零花とは大学に入ってからの仲だが、馬が合ったのか、すぐに打ち解けた。分隊では軽TASKによる攪乱、妨害、奇襲を得意とする。
「あたしはやめとく」
その誘いを断ったのは野守真琴。はっきりものを言う、さっぱりした人物だが、時に軽口を叩くユーモアもある。高校では零花と武蔵との対戦経験もある。分隊では中TASKに乗り、狙撃による支援を担当する。
「いや、遠慮しとく。明日一限から本土の教室で講義があるから」
「そっか~ んじゃあまた今度だね」
「ってことはこのまままっすぐ発着場に?」
「そうなるね」
「あたしらはこのままここの寮に泊まっていくよ」
「わかった、じゃあまた明日」
そう言って零花は3人と別れ、違う通路へ進んだ。いくらか歩いた先にあるエレベーターホールで昇りのエレベーターに乗る。上へ上へと昇っていく。どこまで上がるのか、分からなくなった頃にやっと止まった。降りた先は、空港のターミナルのような場所だった。零花は手慣れた様子で時刻表を確認し、星鷹女子大学行きが出ているゲートへ向かう。目的のゲートで、学生証を自動改札のような機械にかざし、通過する。その先で手荷物検査や金属探知機を通り、搭乗口へ進む。通路を進み、それに乗り込むと、これまた旅客機の客席が並んでいた。ここはいったい何処なのか。その疑問はすぐに解消されることになる。旅客機の離陸前のアナウンスが流れ、いよいよ離陸か、と思われたが、また昇りはじめた。1分ほど昇り、巨大な昇降機が止まった先は、天空。海抜3500mの高空。エンジンが回り始め、離陸する。垂直に。これはVTOL(垂直離陸)旅客機であった。周りを見ると、同じような機体がいくつもあった。どんどん離れ、それ(・・)の全貌が見えてくる。海の上に建つ、巨大な建造物。ここは、仙台沖四〇㎞。TASKにより巨大建築が容易となり、日本が最先端を走っている施設、セクター。このセクターは星鷹女子が保有しているものである。高さ3500m、海面からセクター底面までの高さ1000m、厚さ2500m、奥行き5000m、幅10500m。大学の他に付属の中学、高校の施設も入っており、TASKの練習場もある。商業施設や娯楽施設も入っていて、星鷹の生徒、学生、教職員ならば利用が可能。野菜工場、牧場もあり、自給自足も可能。これが、日本の海の各地にある。TASKが登場した2050年代から、土地問題を解決するために計画され、60年代後半から建設され始めた。宇宙開発によって豊富な資源を安定供給できるようになったからこそできる、大規模国家事業である。今ではセクター生まれセクター育ちも珍しくない。
これが、TASK大国日本の今の姿である。
おまけ
IAS-02 エルフⅡ
帝都重工製重TASK。傑作エルフシリーズの2代目。初代よりも傾斜装甲を多用し、防御力を維持しつつ軽量化に成功し、快速重TASKとして多くのパイロットに愛用されている。後継機にもその設計思想が受け継がれた。
プロローグの零花が搭乗。登場時点の武装は手斧とシールドのみだったが、本来は30㎜機銃を右手に持ち、右肩ウェポンハンガーに230㎜キャノンを懸架、左腕にシールドとその裏面に90㎜滑腔砲、左肩ウェポンハンガーに槍、後ろ腰に手斧を懸架していた。さらに両前腕に榴散弾を発射するショットガンを格納している。あの時は手斧と滑腔砲付きシールド以外は弾が切れたら質量武器としてぶん投げていた。槍も投げた。滑腔砲以外がオフライン表記だったのはそのため。
なんで重量機なのにエルフなのかは、この会社の機体は精霊や妖精、もしくはそれに類するものの名前から取られているから。じゃあなんであえてエルフなのかというと、担当者が「ゴリマッチョで重装歩兵のエルフもいるかもしれないだろ!」とゴリ押したから。




