プロローグ
2116年 6月
全国高等学校TASK競技大会 東北地区予選 女子団体 準決勝
まだ6月だというのに、その場所は真夏にも劣らない熱気に満ちていた。全国出場を懸けて、東北各県代表の高校生TASK乗りが仙台に集まっていた。その中でも、注目の一戦が佳境に入っていた。
「゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっ!」
「ゔゔゔゔゔゔゔゔっ!」
片方は傾斜装甲を多用した重装甲ながらスマートに見える機体、IAS-02エルフⅡ。もう一方は全体的に角張った見た目をした、いかにも硬そうな機体、HT-29E2タフガイ。この二機がそれぞれの得物を手に戦っていた。前者は手斧、後者は鉈、そして両者共にシールドを持ち、準決勝最後の攻防の真っ最中だ。
「まだっ!まだだ!」
「誰がお前なんかにぃっ!」
この準決勝、勝った方が全国へ行くと言われている程の対戦カードで、実質決勝戦のような扱いをされていた。その上2人は小学生時代からの宿敵同士で、互いに絶対に負けたくない相手であった。事実上の決勝戦で、2人の関係も知られているため、観客席も盛り上がっていた。チームメイトは隊長である当人達以外全滅、射撃武器も1つを除いて弾切れになっていた。エルフⅡのコックピットのHUD表示も30mm Machinegun OFFLINE、230mm Canon OFFLINE、90mm Smoothbore EMPTY、と表示が鬱陶しいくらい主張していた。
「だあああぁぁっ!」
タフガイが鉈を袈裟懸けに振り下ろす。エルフⅡがシールドで受け止める。
「ああああぁぁっ!」
今度はエルフⅡが手斧を横なぎに振る。タフガイが防御する。先ほどからこのような攻防が続いている。2人は斬り結びながら全く同じことを考えていた。唯一残っている前腕に格納されている射撃武器をいつ相手の顔面に叩き込むか。この試合はヘッドクラッシュ、つまり相手機体の頭部を破壊することで撃破したことになるルールで、それを虎視眈々と狙っているわけだ。ちなみに、高校生までの操縦は安全を考慮して遠隔操作となっている。万が一コックピットブロックに攻撃が命中しても問題ないようになっている。
まだ同じ読み合いが続くかと思われたが、しかし、ここから試合が大きく動いた。
「ふんっ!」
タフガイがシールドを投げつける。エルフⅡが手斧で叩き落としたが、タフガイが消えていた。投げたシールドを目くらましにして側面から回り込もうとしていた。それに瞬時に気づき、機体を捻りながら後方へブースタを吹かしながらステップ。タフガイが空振りをして動きが止まった瞬間にお返しとばかりにエルフⅡがシールドを投げつける。タフガイがそれに対応する隙を突き、足を払って転倒させようと姿勢を低くして突進。だが、相手もすぐに勘づき、後方へ飛び退いて回避。互いに盾を失った状態。防御手段がもうないため、次で決めると互いに腹を括り、勝負を決めに行く。
ここから攻撃は、防御ではなく回避が主体となる。頭部へ攻撃を振り、避けたところに腕の隠し武器を撃つ。両者はこれを狙っていた。しかし、付き合いが長いため、相手が何をしたいのかわかるので、簡単に決めることはできない。
「!」
それから数回の攻防の後、エルフⅡのパイロット、藤美野零花は僅かな隙を見逃さず、勝負を仕掛けた。
「゛え゛え゛え゛あ゛あ゛あっ!」
「んくぅっ!」
完璧にタフガイの頭部を射線に捉えた、はずだった。零花が引き金を引いたと同時に、タフガイの足元が崩れた。およそ頭一つ分沈み込み、発射された散弾は頭頂部を数発掠っただけで、ほとんど無傷だった。
「え」
予想外の出来事に思考がフリーズし、一瞬動きが止まる。この隙をタフガイのパイロット、黒松美優紀が逃すはずもなく、徹甲榴弾をエルフⅡの頭部へ発射。命中後、ワンテンポ置いて頭部が内側から爆発。決着がついた。
「あ…………あ、゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あゔゔゔゔゔゔゔ!」
藤美野零花の高校最後の夏は、敗北と涙で幕を閉じることになった。
「ちぐじょおおおぉぉぉぉぉぉ!」




