第77話 卒業後のこと
朝食を終えたダンテは、向かいに座るモニカを見つめた。
「モニカ」
「はい、お父様?」
「この前、学園もあと数ヶ月で卒業だな」
その言葉に、モニカの手が止まる。
「……卒業」
改めて口にすると、やはり少し不思議な感じがした。
「卒業した後のことを、少し考えてみてもいい頃かもしれないな」
「卒業後……」
モニカは考え込む。
「私は……ハーマン伯爵家を継ぐのだと思っています」
「そうか」
ダンテは穏やかに微笑んだ。
「そう思っているのなら、それでいい。ただ、今すぐ何かを決める必要はない」
「え?」
「お前はまだ十六歳だ。やりたいことが見つかるかもしれないし、今の考えが変わるかもしれない」
ダンテは少しだけ笑った。
「それに、私は急いでお前の婚約者を探すつもりもない」
「お父様……」
「私とエリンも、自分たちの気持ちで結婚したからな」
その言葉に、モニカは嬉しそうに微笑んだ。
「私も……焦らなくていいですか?」
「ああ」
ダンテは迷いなく答えた。
「もう少し、お前と二人で過ごす時間があってもいいと思っている」
「……私も、お父様と一緒にいたいです」
モニカの言葉に、ダンテは優しく目を細めた。
「なら、それで十分だ」
◇
その日の昼休み。
「モニカ!」
教室に入ってきたリリアが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「卒業夜会の話、聞いた?」
「うん」
「どんなドレスにする?」
「えっ……」
モニカは目を丸くする。
「もう考えるの?」
「もちろんよ!」
リリアは楽しそうに身を乗り出した。
「卒業夜会なんだから、いつものドレスとは違うものがいいじゃない!」
「そうなの?」
「そうよ! 髪型も考えなきゃ。アクセサリーも!」
次々と話が出てくる。
モニカは最初こそ戸惑っていたが、話を聞いているうちに、胸が少しずつ弾んでいった。
「夜会って……そんなに素敵なものなの?」
「もちろん!」
「ダンスもするんだよね?」
「するわよ」
「お料理も?」
「たくさんあると思う!」
「……楽しそう」
モニカの顔に、自然と笑みが浮かぶ。
初めての夜会。
綺麗なドレスを着て。
髪も綺麗に整えて。
美しい会場で、たくさんの人と過ごす。
想像するだけで、胸がわくわくしてきた。
すると、リリアが突然モニカを見つめる。
「そういえば……モニカは誰にエスコートしてもらうの?」
「え?」
「夜会よ。誰かにエスコートしてもらうでしょう?」
モニカは少し考えた。
そして、何の迷いもなく答える。
「えっ? お父様だと思う」
「……お父様?」
「うん」
モニカは当然のように頷いた。
「だって、私の初めての夜会だもの」
リリアは一瞬ぽかんとしたあと、笑い出した。
「モニカらしい!」
「そうかな?」
「そうよ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
モニカは窓の外へ視線を向ける。
卒業。
そして、その前にある初めての夜会。
「……楽しみだな」
胸の奥が、ふわりと温かくなる。
けれど同時に、もう一つのことも頭に浮かんだ。
卒業したら、自分はどうするのだろう。
ハーマン伯爵家を継ぐ。
それは、きっと自分の進む道になる。
でも、それだけでいいのだろうか。
「……卒業までに、ちゃんと考えよう」
モニカは小さく呟いた。
今はまだ、答えは出ていない。
だからこそ――。
卒業までの残された時間を、楽しみながら考えていけばいい。
まずは――。
初めての夜会。
モニカは、まだ見ぬ夜会の光景を思い浮かべながら、少しだけ頬を緩めた。




