第75話 帰国
グランディア帝国――皇宮。
皇族専用の部屋には、ルドルフ、アデライード、そしてアダムが揃っていた。
アダムは、これまで調べてきた金環眼について、二人に改めて説明していた。
「今までの記録を調べてみて、分かったことがあります」
ルドルフとアデライードが、静かにアダムを見る。
「金環眼は、皇家の血を引いているだけで必ず現れるものではありません。初代女帝から続く特定の血筋を持つ者に、発現する可能性があるようです」
「可能性……」
アデライードが呟く。
「はい。必ず現れるわけではありません」
アダムは続けた。
「男女の違いもありません。十五歳から十六歳頃に発現することが多く、生まれた時点では誰に現れるのか分からない」
ルドルフは静かに頷いた。
「だから、三代続けて現れなかったのか」
「そう考えるのが自然だと思います」
アダムは答えた。
先々代にも。
フリードリヒにも。
そしてルドルフにも。
金環眼は現れなかった。
だが、血筋が途絶えていたわけではない。
その後、エヴァンジェリンに現れた。
そして、その娘であるモニカにも。
「……二人続けて現れた理由は?」
ルドルフが尋ねる。
アダムは少し考えてから答えた。
「それも、特別な理由があるとは考えない方がいいと思います」
「ほう?」
「三代続けて現れなかったこともあるんです。なら、二代続けて現れることもある。エヴァンジェリン伯母様とモニカが続けて金環眼を持ったのは……単純に、たまたま発現したと考えるのが一番自然です」
アダムは苦笑した。
「僕たちは少し、難しく考えすぎていたのかもしれません」
しばらく沈黙が続いた。
やがてルドルフが、ふっと息を吐く。
「そうだな」
その表情には、どこか納得したような色が浮かんでいた。
「それならば、必要以上に金環眼を特別視する必要もない」
「はい」
アダムは頷いた。
「もちろん、帝国では特別な瞳として知られていますから、もしモニカの瞳が広く知られれば、騒ぎになる可能性はあります」
それだけは避けた方がいい。
金環眼を理由に、モニカの人生を周囲が勝手に決めてしまうことだけは。
「だが、モニカ嬢本人に隠す必要はない」
ルドルフが言った。
「本人が自分の瞳について知ることと、政治に利用されることは別の話だからな」
「僕も、そう思います」
アダムは頷いた。
「モニカが自分で望まない限り、帝国の都合で何かを押しつけるべきではありません」
ルドルフは迷いなく答えた。
「当然だ。あの子が皇帝になりたいと望まない限り、無理にその道へ進ませるつもりはない」
アデライードも穏やかに頷く。
「それでいいと思います。あの子には、あの子の人生がありますもの」
その言葉に、アダムも微笑んだ。
「はい」
これでいい。
金環眼の謎をすべて解き明かしたわけではない。
けれど、これ以上調べても、今ある記録から答えが出るとは思えなかった。
そして何より――。
モニカの未来を決めるのは、金環眼ではない。
モニカ自身だ。
◇
その数日後。
アダムは、マクホランド王国へ戻る馬車に乗っていた。
窓の外を流れていく景色を眺めながら、今回の帝国での出来事を思い返す。
伯母エヴァンジェリンのこと。
従妹であるモニカのこと。
そして、金環眼についての調査。
「……色々あったな」
けれど、いつまでも帝国にいるわけにはいかない。
自分には王国での学園生活もある。
ふと、アダムは思い出した。
「そういえば……」
もうすぐ、今年も終わりが近づいている。
そして――。
「あと数ヶ月で、僕たちも卒業か」
そう呟いて、アダムは窓の外へ視線を向けた。
学園で過ごせる時間も、残りわずかになっている。
「……早いな」
アダムは小さく笑った。
王国へ戻れば、またいつもの学園生活が待っている。
モニカやリリアと過ごす日々も、そう長くはない。
そんなことを考えながら、アダムを乗せた馬車はゆっくりとマクホランド王国へ向かって進んでいった。




