第74話 金環眼の答え
グランディア帝国――皇族専用書庫。
アダムは、机の上に広げた古い皇統記録を見つめていた。
ここ数日、調べ続けてきた金環眼。
ようやく、その発現について一つの法則が見えてきた。
「……やはり、皇家の血だけではない」
古い記録には、初代女帝から続く血筋についての記述が残されていた。
金環眼は、グランディア皇家の血を引く者すべてに現れるわけではない。
初代女帝の直系に連なる、特定の血筋を持つ者に発現することがある。
その血筋は、男女どちらにも受け継がれる。
そして、金環眼が現れるのは十五歳から十六歳頃。
生まれた時点では、誰に発現するのかは分からない。
アダムは、その記述を何度も読み返した。
「これなら、これまでの記録も説明できる」
皇帝だから発現するわけではない。
男性でも女性でも、条件を持っていれば発現する可能性がある。
逆に、その血筋を受け継いでいても、必ず発現するとは限らない。
アダムは歴代皇族の記録を並べてみた。
先々々代の女性皇帝――金環眼あり。
その後の先々代皇帝――なし。
フリードリヒ――なし。
ルドルフ――なし。
三代続けて、金環眼は現れなかった。
「……三代も空白がある」
だが、それは血筋が途絶えたという意味ではない。
そして、その後に――。
エヴァンジェリン。
金環眼あり。
さらに、その娘。
モニカ。
金環眼あり。
アダムは二人の名前を見つめた。
「母娘で二代続けて……」
最初は、そこにも何か特別な理由があるのではないかと思った。
だが、どれだけ古い記録を探しても、その理由を示すものはない。
アダムはしばらく考えた。
そして――。
「……単純に、続けて発現しただけなのかもしれないな」
三代現れないこともある。
ならば、二代続けて現れることもある。
それだけのことなのかもしれない。
「僕たちは、少し難しく考えすぎていたのかもしれない」
アダムは苦笑した。
金環眼が発現する可能性のある血筋は、確かに存在する。
だが、その血筋を持つ者が必ず発現するわけではない。
誰に現れるのか、その法則までは記録からは分からない。
だからこそ――。
エヴァンジェリンとモニカに続けて現れたことも、特別な現象とは限らない。
二人続けて、たまたま発現した。
今は、それで十分だった。
アダムは、ようやく記録を閉じた。
「これで調査は、ひとまず終わりだな」
けれど、アダムには一つだけ気掛かりがあった。
それは、モニカ本人のことではない。
金環眼という存在が、帝国内ではあまりにも特別視されていることだ。
もし――。
モニカの金環眼が帝国中に知られたら。
皇族の血を引く少女。
初代女帝の血筋。
それだけで、周囲の人間が騒ぎ始める可能性は十分にある。
皇位継承を望む者。
モニカを政治に利用しようとする者。
帝国とマクホランド王国の関係にまで影響を及ぼそうとする者。
考えればきりがない。
「……そこだけは、気をつけないといけないな」
モニカ自身に隠す必要はない。
本人が自分の瞳について知ることは、悪いことではない。
問題なのは――。
モニカの意思を無視して、周囲が彼女の人生を決めてしまうこと。
それだけは、絶対に避けなければならない。
アダムは資料をまとめると、立ち上がった。
「父上にも、この結果を伝えよう」
金環眼について分かったこと。
そして、分からないこと。
それらをすべて伝えるために、アダムは書庫を後にした。
長く続いた調査は、ここで一区切りを迎えた。
金環眼の血筋は、途絶えていなかった。
三代現れなかったことも、特別な異変ではない。
エヴァンジェリンとモニカに二代続けて現れたことも――。
今のところは、偶然と考えるのが一番自然だった。
残るのは、ただ一つ。
モニカ自身が望む人生を、誰にも奪わせないこと。
そのことだけだった。




