第73話 学園祭の終わり
楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
校内に響いていた笑い声も少しずつ落ち着き、出店も片付けを始めている。
「モニカ、そろそろ終わりみたい」
リリアが周囲を見渡しながら言った。
「本当ね」
モニカは少し名残惜しそうに頷いた。
今日は朝から、たくさんの人と話した。
看板を持って校内を歩き、呼び込みをして。
休憩時間にはリリアと一緒に出店を回って、いろいろなものを食べた。
こんなに笑った一日は、いつ以来だろう。
「楽しかったね」
リリアが笑う。
「うん。とても楽しかった」
モニカも笑顔で答えた。
「また来年も一緒に回ろうね」
「うん!」
二人は笑い合った。
やがて校門の近くで待っていたダンテとシルビーの姿が見えた。
「お父様!」
モニカが駆け寄る。
「お疲れさま、モニカ」
「はい!」
ダンテは娘の顔を見て、穏やかに笑った。
「ずいぶん楽しんだようだな」
「はい。リリアと一緒に、たくさん食べました」
「……たくさん?」
ダンテが少し驚いた顔をする。
「はい!」
モニカが頷くと、シルビーが思わず笑った。
「ふふっ。本当に楽しそうでございましたね」
「はい。とても楽しかったです」
モニカはシルビーを見る。
「シルビーも来てくれて、嬉しかった」
「私も、お嬢様の楽しそうなお姿を見ることができて嬉しゅうございました」
シルビーの言葉に、モニカは少し照れながら微笑んだ。
「また……こういう日があるといいですね」
「きっとございますよ」
シルビーは優しく答えた。
その言葉に、モニカの胸が温かくなる。
昔は、こんなふうに父と一緒に学園祭を楽しむことも、シルビーと過ごすことも考えられなかった。
けれど今は違う。
大切な人たちと笑い合える時間が、少しずつ増えている。
「では、帰ろうか」
ダンテが声を掛ける。
「はい、お父様」
モニカは頷いた。
「リリア、また明日ね」
「うん! また明日!」
手を振るリリアに、モニカも手を振り返す。
そして、ダンテとシルビーとともに馬車へ向かった。
◇
その頃――。
グランディア帝国。
アダムは皇宮の書庫にいた。
机の上には、古びた歴史書や皇族に関する記録が何冊も積まれている。
「……これも違うか」
ページをめくりながら、アダムは小さく呟いた。
調べているのは、金環眼。
三代にわたって現れなかった特別な瞳が、なぜエヴァンジェリンに現れ、その娘であるモニカにも現れたのか。
その理由を探すために、アダムは帝国へ戻っていた。
古い記録を一冊ずつ調べていく。
すると、ふと手が止まった。
「……ん?」
何か気になる記述を見つけた。
アダムは眉を寄せ、そこをもう一度読み返す。
「これは……」
だが、まだ答えには辿り着けない。
アダムは別の記録を手に取った。
その時、ふと窓の外へ目を向ける。
「……そういえば」
今日は王立学園の学園祭だった。
本当なら、自分も学生として参加していたはずだ。
友人たちと出し物を見たり、出店を回ったり。
「……行きたかったなぁ」
アダムは少し残念そうに呟いた。
けれど、今は金環眼の謎を調べることが先だ。
「仕方ないか」
そう言って、アダムは再び歴史書へ目を戻した。
「さて……もう少し調べてみるか」
静かな書庫の中で、ページをめくる音だけが響いていた。




