第72話 学園祭を楽しもう
「それでは、二年A組の皆さん、お願いします!」
教師の声が響いた。
モニカとリリアは、教室の隅に用意されていた大きな看板を手に取った。
今日の二人の担当は、学園祭に訪れた人たちへの呼び込みだ。
「モニカ、行こう!」
「うん!」
モニカが看板を持ち上げる。
すると、隣にいたダンテが看板を見て、ふと口を開いた。
「モニカ」
「はい?」
「その看板は、できるだけ顔より少し高めに持って歩くといい」
「え?」
モニカが首を傾げる。
ダンテは眼鏡を掛けた娘の顔を見てから、窓の外へ視線を向けた。
「今日は天気がいい。日差しが強いからな。看板が顔に影を作ってくれれば、眼鏡だけよりも瞳を見られる可能性を減らせる」
「あ……」
モニカは看板を少し高く持ち上げてみた。
すると、大きな看板の影がちょうど顔にかかった。
「本当ですね」
「ただし、無理をして高く持つ必要はない。疲れたらリリアと交代しなさい」
「はい、お父様」
モニカは頷いた。
これなら大丈夫。
眼鏡と看板の影。
二重に瞳を隠すことができる。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
ダンテとシルビーに見送られ、モニカとリリアは廊下へ出た。
「二年A組の出し物です! ぜひお越しくださーい!」
リリアが元気よく声を上げる。
モニカも続こうとした。
けれど、いざ大勢の人の前に出ると、少し緊張してしまう。
「……」
「モニカ!」
「は、はい!」
「大丈夫。私と一緒だから!」
リリアが笑う。
モニカも小さく頷いた。
そして、少しだけ声を張る。
「二年A組の出し物です! ぜひお越しください!」
「そうそう!」
リリアが嬉しそうに笑った。
「ちゃんと言えたじゃん!」
「……ちょっと恥ずかしいわ」
「すぐ慣れるよ!」
二人は並んで廊下を歩いていく。
モニカが持つ大きな看板が、ちょうど顔に影を作っている。
そのおかげで、たくさんの人が行き交う中でも、瞳を気にする必要はなかった。
「二年A組って何をやっているの?」
通りかかった生徒が尋ねる。
「教室で楽しめる出し物ですよ!」
リリアが笑顔で答える。
「ぜひ来てください!」
モニカも頭を下げた。
「お待ちしています」
最初は恥ずかしかった呼び込みも、何度か繰り返すうちに少しずつ楽しくなってきた。
リリアと一緒なら、人前で声を出すことも怖くない。
「モニカ、次はあっち!」
「うん!」
二人は笑いながら、次の場所へ向かった。
◇
しばらく呼び込みを続けたあと、交代の時間になった。
「お疲れさま!」
「疲れたぁ……」
モニカは椅子に座って、小さく息を吐いた。
すると、リリアが目を輝かせる。
「ねえ、モニカ!」
「なに?」
「出店、見に行こう!」
「出店?」
「そう! せっかくの学園祭だよ?」
モニカの顔がぱっと明るくなる。
「……行きたい!」
「決まり!」
二人は校庭へ向かった。
そこにはたくさんの出店が並んでいた。
焼きたてのパン。
香ばしい串焼き。
甘い焼き菓子。
果物を使ったお菓子。
あちらこちらから美味しそうな匂いが漂っている。
「わぁ……」
モニカの目が輝いた。
「どれから食べる?」
「えっと……」
どれも美味しそうで、一つに決められない。
「じゃあ、まずはこれ!」
リリアが指差したのは、焼きたてのパンだった。
「二つください!」
「はいよ!」
焼きたてのパンを受け取る。
「いただきます」
モニカは一口かじった。
「……美味しい!」
思わず笑顔になる。
「でしょう?」
リリアも嬉しそうに笑った。
「次はあっち!」
「えっ、もう?」
「学園祭なんだから、いっぱい食べなきゃ!」
二人は次の出店へ向かった。
串焼きを食べ、甘い焼き菓子も食べる。
さらに果物を使ったお菓子まで見つけた。
「これも美味しい……」
モニカは幸せそうに頬を緩める。
「モニカ、まだ食べられる?」
「はい!」
即答したモニカに、リリアが吹き出した。
「ふふっ。いっぱい食べるね」
「だって……どれも美味しいんだもの」
モニカは少し照れながら笑った。
「じゃあ、次はあれ!」
「うん!」
二人はまた別の出店へ向かった。
少し離れた場所から、その様子をダンテとシルビーが見ていた。
「……あんなに楽しそうに」
シルビーが嬉しそうに呟く。
ダンテもモニカを見つめていた。
「今日は朝からずっと笑っているな」
「はい」
シルビーは微笑んだ。
「お嬢様が、あのように楽しそうにされている姿を見られて……本当に嬉しゅうございます」
ダンテも小さく笑った。
「モニカには、こういう時間が必要だったんだろうな」
「そうですね」
二人の視線の先で、モニカが笑っている。
「リリア、次はあれが食べたい!」
「まだ食べるの?」
「だって美味しそうだもの!」
「もう、モニカったら!」
二人の楽しそうな笑い声が、賑やかな学園祭の中に響いていた。




