第71話 学園祭の日
学園祭当日。
朝から王立学園は、いつもとは違う賑わいに包まれていた。
校門には色とりどりの飾りが施され、普段は見かけない生徒の家族や街の人々も、次々と学園へ入っていく。
モニカは玄関の鏡の前で、眼鏡の位置をそっと直した。
「……大丈夫」
昨日、父のダンテから渡された眼鏡。
金環眼を隠すためのものだ。
人の多い今日なら、きっと役に立ってくれる。
「お嬢様、お迎えの馬車が来ております」
使用人の声が聞こえ、モニカは鞄を手に取った。
「はい」
玄関へ向かうと、ダンテが待っていた。
「準備はできたか?」
「はい、お父様」
「眼鏡も問題なさそうだな」
「はい。昨日より少し慣れました」
モニカが微笑む。
ダンテも穏やかな表情で頷いた。
「今日は楽しんでおいで」
「ありがとうございます」
二人は馬車に乗り、学園へ向かった。
◇
学園に到着すると、校門の前にはたくさんの人が集まっていた。
「すごい……」
モニカは思わず声を漏らした。
いつも通っている学園なのに、今日はまるで別の場所のように感じる。
「モニカ!」
聞き慣れた声がして、振り返る。
リリアがこちらへ駆けてきた。
「おはよう!」
「おはよう、リリア」
「今日は人が多いね!」
リリアは周囲を見回しながら笑った。
「迷子にならないように、ちゃんと一緒に行こうね」
「ふふ、そうね」
二人は笑いながら、並んで校舎へ向かった。
その時、リリアがモニカの後ろへ視線を向けた。
「あら?」
そこにはダンテが立っていた。
「今日はお父様も来てくださったのね」
「はい。学園祭を見に来てくださるそうです」
「良かったね、モニカ」
モニカは嬉しそうに頷いた。
すると――。
「お嬢様……」
聞き覚えのある声がした。
モニカが振り返る。
そこにはシルビーが立っていた。
十年前まで、自分の乳母だった女性。
そして、最近になって再び出会った大切な人。
「シルビー……」
「本日は、お招きいただきありがとうございます」
シルビーは丁寧に頭を下げた。
「来てくれて……嬉しいわ」
モニカも微笑む。
まだ再会してから、それほど時間は経っていない。
十年間離れていた二人が、昔のようにすぐ話せるわけではない。
けれど、こうして自分の学園へ来てもらえたことが、モニカには嬉しかった。
「シルビー、こちらは私の親友のリリアです」
「初めまして」
リリアが頭を下げる。
「初めまして、リリア様」
「様なんていりませんよ。モニカの親友ですから」
シルビーは少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
「そうですか。それは心強いですね」
「はい!」
リリアが元気よく答える。
その様子を見ていたダンテが口を開いた。
「シルビー。今日はモニカをよろしく頼む」
「はい、旦那様」
シルビーは頷いた。
「ですが、本日は私がお嬢様のお世話をするというより……学園祭を楽しむお嬢様を、ゆっくり見させていただこうと思っております」
「……シルビー」
モニカは少し照れたように笑った。
「私、今日はいっぱい楽しみたいと思っています」
「それが一番でございます」
シルビーは嬉しそうに微笑んだ。
その時、近くにいた生徒たちの会話が聞こえてきた。
「ねえ、そういえば……アダム様はいないの?」
「そういえば見かけないわね」
「学園祭には来ると思っていたのに」
「帝国へ戻られたんじゃない?」
「残念ね。お姿を見られると思っていたのに」
モニカはその会話に気づき、そちらへ目を向けた。
「アダム様……」
「そういえば、アダム様は帝国へ戻られているんだったね」
リリアが言った。
「ええ。きっと帝国でお忙しいのでしょう」
モニカはそれだけ答えた。
「さて!」
リリアが手を叩く。
「私たちも行かないと!」
「そうね」
モニカは頷いた。
「お父様、シルビー。終わったら、またここで会いましょう」
「ああ」
「はい、お待ちしております」
二人に見送られ、モニカとリリアは校舎へ向かった。
教室に入ると、すでにクラスメイトたちがそれぞれの持ち場についていた。
教室は綺麗に飾り付けられ、準備もすべて整っている。
「モニカ、来た!」
「ごめんなさい」
「大丈夫。もうすぐ始まるよ!」
「うん!」
モニカはリリアの隣に並んだ。
そして――。
「それでは、始めます!」
クラスメイトの声とともに、学園祭が始まった。




