第69話 親友に伝えたいこと
放課後。
教室に残っていた生徒たちが少しずつ帰り始める中、モニカは鞄を手に取った。
隣の席では、リリアが帰り支度をしている。
モニカは一度、口を開きかけて閉じた。
昨日から、ずっと考えていた。
リリアになら話してもいいのではないか。
お父様も、そう言ってくれた。
だから――。
「……リリア」
「ん?」
顔を上げたリリアに、モニカは少し緊張しながら言った。
「放課後、少し話があるの。聞いてくれる?」
「もちろん」
リリアはすぐに頷いた。
「園庭のベンチで……いい?」
「うん。分かった」
二人は教室を出た。
夕方の園庭には、まだ何人かの生徒が残っていたが、少し離れた場所にあるベンチには誰もいなかった。
二人は並んで腰を下ろす。
夕暮れの風が、木々の葉を静かに揺らしている。
けれどモニカは、なかなか話し始めることができなかった。
膝の上で両手を握りしめる。
そんなモニカを見ても、リリアは何も言わずに待っていた。
やがてモニカが、小さく息を吐く。
「……リリア」
「うん」
「昨日、図書室でグランディア帝国のことを調べていたでしょう?」
「うん」
「どうして調べているのか……聞いたわよね」
「……うん」
リリアは静かに頷く。
「私、昨日は言えなかったけれど……今日は話そうと思って」
モニカの声は少し震えていた。
リリアはそれに気づいたのか、優しく微笑む。
「無理しなくていいよ」
「ううん。話したいの」
モニカは顔を上げた。
そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私のお母様は……グランディア帝国の皇族だったの」
「……え?」
リリアの目が大きく見開かれた。
「皇族……?」
「ええ」
モニカは頷く。
「お母様の本当のお名前は、エヴァンジェリン・フォン・グランディア」
「……!」
リリアは驚きのあまり、しばらく言葉を失った。
モニカは続ける。
「お母様は、帝国を離れて……お父様と出会ったの。そして、私を産んでくれた」
「じゃあ……モニカのお母様は、本当に皇女様だったの?」
「……そうみたい」
モニカは少し寂しそうに笑った。
「私も最近まで知らなかったの。だから……もっとお母様のことを知りたくなって」
「それで、帝国の歴史を調べてたのね」
「うん」
リリアは納得したように頷いた。
そして少し考えたあと、モニカを見る。
「モニカ……」
「なに?」
「話してくれて、ありがとう」
その言葉に、モニカの瞳が揺れた。
「……怖くないの?」
「何が?」
「私のお母様が皇族だったってこと」
リリアは首を傾げる。
「どうして怖いの?」
「だって……私は普通の伯爵令嬢だと思っていたのに。実は帝国の皇族の血を引いているなんて……」
「でも、モニカはモニカでしょう?」
「……」
その言葉が、モニカの胸に温かく広がった。
「私は、モニカと友達になったんだよ。皇族だからじゃない」
「……リリア」
「だから、何も変わらないよ」
リリアは笑った。
モニカも、少しだけ笑う。
けれど――。
「ただ……もう一つだけ、お願いがあるの」
「うん。何?」
モニカは少し迷ったあと、静かに言った。
「私の瞳のことは……誰にも話さないでほしいの」
リリアの表情が真剣になる。
「……金色の輪のこと?」
モニカは頷いた。
「うん。お父様からも、知られてはいけないと言われているの」
「分かった」
リリアは迷うことなく答えた。
「誰にも言わない」
「本当に?」
「本当だよ」
そして、いつもの笑顔を見せる。
「だって、親友だもん」
モニカは胸がいっぱいになった。
「……ありがとう、リリア」
夕暮れの園庭に、二人の笑い声が小さく響く。
モニカは思った。
母のことを知るのは、まだ始まったばかり。
けれど――。
その道を一緒に歩いてくれる親友がいる。
それだけで、少し心強かった。




