第67話 親友だから
学園へ向かう道を歩きながら、モニカは今朝のお父様との会話を思い出していた。
「……お父様、変わったわ」
以前なら、朝食を一緒に食べることもなかった。
ましてや、自分のことを心配してくれるなんて考えたこともなかった。
けれど今は違う。
「私を守ってくれる……」
そう思うと、自然と頬が緩んだ。
学園へ着くと、いつものように教室へ向かう。
「モニカ!」
聞き慣れた声に振り向くと、リリアが駆け寄ってきた。
「おはよう、リリア」
「おはよう!」
二人は並んで教室へ入る。
授業が始まるまでの短い時間、二人はいつものように他愛のない話をしていた。
けれど――。
リリアがふと、モニカの顔をじっと見つめた。
「……ねえ、モニカ」
「なに?」
「やっぱり気になるんだけど……」
リリアは少し迷ったように言葉を続ける。
「どうして、その瞳を隠してるの?」
モニカの表情が止まった。
「……瞳?」
「うん」
リリアはモニカの瞳を見つめる。
「だって、すごく綺麗だもの」
「……綺麗?」
モニカは思わず瞬きをした。
自分にとっては、突然現れた金色の輪。
お父様からも、人前ではできるだけ隠しておくようにと言われている。
だから――。
「この瞳が……?」
「うん。とても綺麗」
リリアは迷いなく答えた。
モニカは少しだけ視線を落とした。
「……理由は、ごめん。言えないの」
「……そっか」
「私にも、どうしてなのか全部は分からないの」
モニカは小さな声で続ける。
「ただ……知られちゃいけなくて……」
リリアはしばらくモニカを見つめていた。
けれど、それ以上は何も聞かなかった。
「分かった」
「え?」
「モニカが言えないなら、聞かないよ」
「リリア……」
「親友だもん」
その言葉に、モニカの胸が温かくなる。
「秘密にしたいことって、誰にだってあるでしょう?」
リリアは笑った。
「だから、話したくなった時に話してくれればいいよ」
モニカはしばらく黙っていた。
そして――。
「……ありがとう」
小さく笑う。
「リリアが親友でよかった」
「私も、モニカと親友でよかった!」
二人は顔を見合わせて笑った。
その時、教室に教師が入ってくる。
「席につきなさい。授業を始めるぞ」
「はーい!」
リリアが慌てて席へ戻っていく。
モニカも自分の席に座った。
けれど、胸の奥には先ほどの言葉が残っていた。
――この瞳が綺麗。
自分では、そんなふうに思ったことはなかった。
突然現れた金色の輪。
隠さなければならないもの。
怖いもの。
そう思っていた。
けれど――。
「綺麗……なのかな」
モニカは小さく呟いた。
窓から差し込む光が、彼女の瞳に反射する。
その瞳の奥で、金色の輪が淡く輝いた。
モニカ自身はまだ知らない。
その瞳が、遠い帝国で長い間待ち望まれていたものだということを。
そして、この小さな秘密が――
やがて彼女自身の未来を大きく変えていくことを。




