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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第66話 父と娘の朝


朝。


モニカが目を覚ますと、窓から差し込む柔らかな光が部屋を照らしていた。


身支度を整え、部屋を出る。


以前なら、朝食の時間を気にすることもなかった。


食事が用意されているのかどうかも分からない。


お腹が空けば、自分で何とかする。


それが、モニカにとって当たり前の日々だった。


けれど今は違う。


廊下を歩いていると、使用人から声を掛けられた。


「モニカお嬢様、お食事の準備が整っております」


「ありがとうございます」


その言葉に、モニカは自然と笑顔になる。


食堂へ向かうと、そこにはすでにダンテがいた。


「おはよう、モニカ」


「おはようございます、お父様」


以前なら、父と二人で朝食を取ることなど考えられなかった。


モニカが席に着くと、ダンテは少し嬉しそうに微笑んだ。


「よく眠れたか?」


「はい」


「昨日は疲れていただろう」


「大丈夫です。お父様こそ、お疲れではありませんか?」


「私か?」


ダンテが少し驚いた顔をする。


モニカは首を傾げた。


「昨日、お帰りになったばかりですし……」


「そうだな」


ダンテは小さく笑った。


「だが、モニカとこうして朝食を食べられると思えば、疲れなど気にならない」


「……」


モニカの手が止まった。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


以前のお父様なら、こんなことを言ってくれただろうか。


そう思った瞬間、少しだけ胸が痛んだ。


けれど――


今は違う。


お父様は、自分を見てくれている。


自分と話そうとしてくれている。


「……嬉しいです」


小さな声で呟く。


「ん?」


「お父様と一緒に朝ご飯を食べられるのが……嬉しいです」


ダンテは一瞬、言葉を失った。


そして、優しく微笑む。


「私もだ」


短い言葉だった。


けれど、その言葉だけで十分だった。


モニカは嬉しそうにスープを口に運ぶ。


そんな娘の姿を見ながら、ダンテはふと尋ねた。


「今日は学園だな」


「はい」


「友達とは、うまくやれているか?」


「はい。リリアが一緒にいてくれます」


「そうか」


ダンテは安心したように頷く。


「それならよかった」


少しの沈黙。


やがてダンテは、慎重に口を開いた。


「……モニカ」


「はい?」


「瞳のことだが」


モニカの手が止まる。


金色の輪。


自分の瞳に突然現れた、不思議な変化。


「学園では、できるだけ人に見られないようにしてほしい」


「……はい」


「理由を今すぐ説明できないのは分かっているな。だが、帝国のこともある」


ダンテは言葉を選ぶように続けた。


「お前を危険な目に遭わせたくない」


モニカは父の顔を見つめた。


以前の自分なら、こんなふうに心配してもらえることなどなかった。


だからこそ――


嬉しかった。


「分かっています」


「……本当にすまない」


「お父様?」


ダンテは少し苦しそうに笑った。


「もっと早く、お前を守ってやれればよかった」


モニカはしばらく黙っていた。


そして、ゆっくり首を横に振る。


「もういいんです」


「モニカ……」


「今は、お父様が私を守ってくれているって分かっていますから」


ダンテの瞳が揺れた。


「だから……大丈夫です」


モニカは笑った。


明るく。


優しく。


まるで、これまでの十年間を恨んでいないかのように。


けれどダンテには分かっている。


その笑顔の裏には、幼い頃から一人で耐えてきた娘の時間がある。


だからこそ、これからは――


もう一人にはしない。


「……ありがとう、モニカ」


ダンテは静かに答えた。


「これからは、何かあれば必ず私に話してくれ」


「はい、お父様」


モニカは嬉しそうに頷いた。


そして食事を終えると、学園へ行くために席を立った。


「行ってきます」


「ああ。気をつけて行っておいで」


「はい!」


扉へ向かうモニカの背中を、ダンテはしばらく見つめていた。


少し前までなら、こんな何気ない朝の会話さえ想像できなかった。


それが今は――


娘が笑顔で「行ってきます」と言い、自分が「行っておいで」と送り出す。


それだけのことが、たまらなく嬉しい。


「……エリン」


誰もいなくなった食堂で、ダンテは小さく呟いた。


「君が残してくれた娘を……今度こそ、私が守る」


その頃、モニカは知らなかった。


自分の瞳について、遠く離れたグランディア帝国で、皇帝と皇族たちが動き始めていることを。


そして――


今日もまた、いつもの学園生活が始まろうとしていた。

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