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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第64話 金環眼の記録

グランディア帝国。


皇宮の奥深くにある、皇族専用の書庫。


普段はほとんど人の出入りがないその場所に、皇帝ルドルフの姿があった。


その隣には、アダムとアデライードもいる。


重厚な扉の向こうには、長い年月をかけて集められた皇統記録が収められていた。


「これほど古い記録を調べるのは、久しぶりですね」


アデライードが静かに呟く。


「ああ」


ルドルフは頷いた。


昨日、母とアダムから聞かされた話が、頭から離れない。


妹エヴァンジェリン。


そして、その娘モニカ。


二人の瞳に現れた――金環眼。


「まずは、金環眼が最後に現れた人物を確認したい」


ルドルフはそう言って、古い皇統記録を一冊ずつ確認していった。


皇帝の名。


即位した年。


在位期間。


そして、金環眼の発現について記された記録。


しばらくページをめくっていたルドルフの手が止まった。


「……あった」


「何か分かりましたか?」


アダムが身を乗り出す。


ルドルフは記録をじっと見つめた。


「先先々代皇帝だ」


アデライードも記録を覗き込む。


そこには、はっきりと金環眼についての記述が残されていた。


先先々代皇帝――金環眼あり。


「やはり……」


アデライードが小さく呟く。


ルドルフは、そのまま次の記録を確認した。


先々代皇帝。


「……なし」


続いて、先代皇帝。


「フリードリヒも……なし」


そして、自分自身。


「私にも、現れていない」


ルドルフは静かに息を吐いた。


三代。


先々代皇帝。


フリードリヒ。


そして、自分。


三代続けて、金環眼は現れていなかった。


「三代……」


アダムが呟く。


「それなら、エヴァンジェリン皇女殿下に現れた時は、かなり久しぶりだったということですね」


「ああ」


ルドルフは頷いた。


けれど、そこで手を止めた。


「待て」


「父上?」


「エヴァンジェリンの発現は、その三代の後だ」


「はい」


「そして……その娘であるモニカ嬢にも現れた」


三人の間に沈黙が落ちた。


長い間、現れなかった金環眼。


それが――


エヴァンジェリンに現れた。


そして、その娘モニカにも現れた。


「……偶然なのか?」


ルドルフの言葉に、誰も答えられなかった。


アデライードは、静かに記録を見つめる。


「エヴァに現れた時、私は本当に驚きました」


「母上が?」


「ええ」


アデライードは頷く。


「まさか、三代も現れていなかった金環眼が、あの子に現れるとは思っていませんでしたから」


ルドルフは眉を寄せる。


「そして、モニカ嬢にも……」


アダムが記録へ視線を落とす。


「金環眼は、皇家の血を引く者に十五歳から十六歳頃に現れる」


「それは分かっている」


ルドルフが答える。


「だが――誰に現れるのかは分からない」


「はい」


アダムも頷いた。


「だからこそ、調べる必要があります」


ルドルフは古い記録をさらに手繰っていく。


「金環眼を持った皇族には、何か共通点があるのかもしれない」


「性別は?」


アデライードが尋ねた。


ルドルフは記録を確認する。


「……先先々代皇帝は男性だ」


「では、女性だから現れるというわけではありませんね」


アダムが言った。


「そうなる」


さらに記録を遡る。


すると、別の記述が目に入った。


ルドルフの指が止まる。


「……これは」


「どうしました?」


アデライードとアダムが同時に尋ねる。


ルドルフは、古い肖像画の記録を開いた。


そこに描かれていたのは――


遥か昔の皇帝。


いや。


正確には――


初代皇帝。


そして、その肖像画に描かれた瞳には、はっきりと金色の輪があった。


「……初代皇帝にも、金環眼があった」


アダムが息を呑む。


アデライードも、驚いた表情で肖像画を見つめる。


「女性……なのですね」


「ああ」


ルドルフは静かに答えた。


「初代皇帝は女性だ」


三人は、しばらく言葉を失った。


金環眼は、女性にも現れる。


男性にも現れる。


そして、長い間現れなかったと思われていたものが、再びエヴァンジェリンに現れた。


さらに、その娘モニカにも。


「……性別ではない」


ルドルフが呟く。


「では、何が条件なんだ?」


答えは、まだ皇統記録のどこにも書かれていない。


けれど――


三代途絶えていた金環眼が、再び現れた。


それも、母から娘へ。


偶然と片付けるには、あまりにも不思議な出来事だった。


ルドルフは、古い皇統記録を閉じる。


「もっと古い記録を調べよう」


その声には、皇帝としての決意があった。


「金環眼が、いつ、なぜ生まれたのか。初代皇帝の時代まで遡って調べる」


アダムが頷く。


「僕も手伝います」


「もちろんです」


アデライードも静かに答えた。


三人は再び、古い記録へと目を向けた。


まだ誰も知らない。


金環眼が現れる本当の理由。


そして――


なぜ三代の空白を経て、


エヴァンジェリンとモニカの母娘に、続けて現れたのか。


その答えは、帝国の遥か古い歴史の中に眠っていた。

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