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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第59話 祖母と孫


 アデライードは、しばらく言葉を失っていた。


 エヴァンジェリンに現れた金環眼。


 そして、その娘――モニカにも同じ金環眼が現れた。


 長い年月を隔てて、まるで運命が繋がったかのようだった。


「……モニカに、会えますか?」


 アデライードが、震える声で尋ねた。


 アダムは、その言葉を聞いて少しだけ目を伏せる。


「祖母上……」


「会いたいのです」


 アデライードは、涙の残る瞳でアダムを見つめた。


「エヴァの娘に……一度でいいから」


 その願いを聞き、アダムの脳裏にダンテの言葉が蘇った。


――モニカを政治の道具にするつもりはありません。


 あの言葉は、はっきりとした意思だった。


 モニカを皇族として扱えば、彼女の人生は大きく変わってしまう。


 帝国へ呼べば、なおさらだ。


「……帝国へ、モニカ嬢を呼ぶことは難しいと思います」


 アダムが慎重に答える。


 アデライードの表情が曇った。


「……そうですか」


「ハーマン伯爵は、モニカ嬢を政治の道具にするつもりはないと、はっきり言っていました」


「……」


「私も、その意思は尊重すべきだと思っています」


 アデライードは黙って聞いていた。


 そして、しばらく考えた後――。


「ならば……」


 静かな声が部屋に響いた。


「私が会いに行くことはできないのですか?」


「祖母上が……?」


「ええ」


 アデライードは頷いた。


「モニカを帝国へ呼ぶのではなく、私が会いに行けばいい」


 アダムは思わず祖母を見つめた。


「ですが、祖母上……」


「分かっています」


 アデライードは穏やかに微笑んだ。


「私が突然現れれば、モニカも困るでしょう」


 少し寂しそうに笑う。


「何しろ……あの子にとって私は、会ったこともない祖母なのですから」


「……」


「それでも……」


 アデライードは胸元に手を当てた。


「エヴァの娘に会ってみたいのです」


 その声には、強い願いが込められていた。


「どんな顔をしているのか」


「……」


「どんな声で話すのか」


 アデライードの目に、また涙が浮かぶ。


「そして……エヴァに似ているのか」


 アダムは、しばらく何も言わなかった。


 やがて、小さく息を吐く。


「……分かりました」


「アダム?」


「私からハーマン伯爵に話してみます」


 アデライードの表情が、ほんの少し明るくなる。


「本当に?」


「はい。ただし、モニカ嬢がどうするかは、モニカ嬢自身に決めてもらうべきです」


「もちろんです」


 アデライードは頷いた。


「私が会いたいからといって、無理強いするつもりはありません」


 その言葉に、アダムは少し安心した。


「ありがとうございます」


「……アダム」


「はい」


「モニカは……母親のことを知っているのですか?」


 アダムは一瞬、言葉を止めた。


「はい」


「エヴァが、エヴァンジェリンだったことも?」


「知っています」


 アデライードの瞳が揺れる。


「そう……」


 モニカは何も知らない少女ではない。


 母エリンが残した日記を読み、自分の母がグランディア帝国の皇女だったことを知っている。


 そして、自分の祖母がこの帝国にいることも――。


「では……」


 アデライードは、ゆっくりと顔を上げた。


「モニカは、私のことを知っているのですね」


「はい」


 アダムは静かに答えた。


「だからこそ……会うことになれば、きっとモニカ嬢もいろいろなことを考えると思います」


「……そうでしょうね」


 アデライードは微笑んだ。


 そして、目を閉じる。


 脳裏に浮かぶのは、もう会うことのできない娘。


 エヴァンジェリン。


 その娘が、今もこの世界のどこかで生きている。


 そして――自分の血を引く少女として。


「……会ってみたい」


 アデライードは、もう一度呟いた。


「エヴァの娘に」


 その声は、今度は涙に濡れていた。


 アダムはそんな祖母を見つめながら、静かに頷いた。


 モニカがこの申し出を知った時――。


 果たして、何を思うのだろう。


 そして。


 母に似た面影を持つ少女と、母によく似た祖母。


 二人が初めて顔を合わせる日は、そう遠くないのかもしれなかった。

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