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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第55話 帝国へ

 ハーマン伯爵邸を出たアダムは、馬車の中で静かに考えていた。


 ダンテから聞いた話が、頭から離れない。


 エリン・ハーマン。


 その正体は、行方不明になった叔母――エヴァンジェリン・フォン・グランディア皇女。


 そして、その娘がモニカ。


「……父上に報告しなければ」


 アダムは小さく呟いた。


 これは、自分一人の判断で動いていい問題ではない。


 叔母の生死に関わるだけではない。


 帝国の皇族に関わる、重大な事実なのだ。


 アダムは王立学園へ戻ると、すぐに学園長への面会を申し込んだ。


「アダム殿下がお越しになりました」


「どうぞ」


 学園長の執務室へ入ると、アダムは一礼した。


「急なお願いで申し訳ありません」


「いえ。どうされましたかな?」


「帝国本国へ、一時帰国したいのです」


 学園長が少し驚いた顔をする。


「一時帰国……ですか?」


「はい」


 アダムは落ち着いた声で続けた。


「皇族に関わる重要な案件が生じました。詳しいことは、ここでは申し上げられません」


 学園長は黙ってアダムを見る。


「ですが、父上に直接報告し、確認しなければならないことがあります」


「なるほど……」


 学園長も、それ以上は深く尋ねなかった。


 皇族に関する事情ならば、無理に聞くべきことではない。


「もちろん、許可いたしましょう。帝国側への連絡も必要でしょうな」


「ありがとうございます」


「帰国の期間は決まっていますか?」


「まだ分かりません。できるだけ早く戻るつもりです」


 こうして、アダムの一時帰国が正式に決まった。


 学園からグランディア帝国へも、皇子の帰国について連絡が送られることになった。


 これで、突然姿を消すことにはならない。


 だが――。


 アダムには、もう一つ気掛かりなことがあった。


「……モニカ」


 寮へ戻り、荷物をまとめながら、アダムは彼女の顔を思い浮かべる。


 このことを、モニカに話すべきだろうか。


 しばらく考えた後、首を横に振った。


「……まだ早い」


 エリンがエヴァンジェリン皇女であることは、ほぼ間違いない。


 だが、まだ確認しなければならないことがある。


 それに――。


 この事実を知れば、モニカの生活は大きく変わってしまうかもしれない。


「今は……何も知らないままでいい」


 少なくとも、真実を確かめるまでは。


 アダムはそう決めた。


 翌朝。


 帝国へ向かう馬車が、王都を出発する。


 窓から遠ざかっていく王都を眺めながら、アダムは静かに目を閉じた。


「父上は……何を知っている?」


 そしてもう一つ。


「……叔母上は、なぜ帝国を出たのか」


 その答えを知るために。


 アダムは一度、故郷へ帰る。


 ――父上に、すべてを話そう。


 エヴァンジェリン叔母上のことを。


 そして――モニカのことを。

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