第53話 残された違和感
グランディア帝国から取り寄せた資料を前に、アダムは黙り込んでいた。
机の上には、エヴァンジェリン・フォン・グランディア。
かつて帝国から姿を消した皇女についての記録が並んでいる。
そして、その隣には――。
エリン・ハーマンについて、マクホランド王国で調べた資料。
「……やはり、間違いない」
アダムは、エヴァンジェリン皇女の肖像画へ目を向けた。
そこに描かれた少女と、現在のモニカ。
顔立ちがよく似ている。
そして、モニカに現れた金色の輪。
これだけの条件が揃っていて、偶然だと考える方が難しい。
「エリン・ハーマン夫人……」
アダムは静かに呟いた。
モニカの母。
そして――。
エヴァンジェリン・フォン・グランディア。
同一人物。
もう、アダムの中ではほぼ確信に近かった。
だが、一つだけ大きな疑問が残っている。
「なぜ、エンターナル国なんだ……?」
アダムは帝国側の記録をもう一度確認する。
そこには明確に書かれていた。
――エヴァンジェリン皇女。
――エンターナル国への外交視察。
――滞在中に消息を絶つ。
「外交視察……」
アダムは、その言葉を何度も繰り返した。
しかし、エンターナル国側の記録を調べると――。
エヴァンジェリン皇女の外交視察に関する記録が存在しない。
「……おかしい」
皇女が他国を訪問したのであれば、普通なら記録が残る。
歓迎。
謁見。
宿泊。
随行した者。
少なくとも、何かしらの記録があるはずだ。
だが、エンターナル国にはない。
「帝国にはあるのに……」
アダムは眉を寄せた。
帝国側には、エヴァンジェリン皇女が外交視察でエンターナル国へ向かったという記録がある。
なのに、訪問先にはその記録がない。
「誰かが消した?」
いや。
それだけではない。
そもそも――。
「本当に外交視察だったのか?」
アダムは椅子に深く腰掛けた。
もし外交視察というのが表向きの理由だったのなら。
何か別の目的があった可能性がある。
そして、その後エヴァンジェリン皇女は消息を絶った。
やがて――。
マクホランド王国に、エリン・ハーマンという女性が現れる。
「……繋がっている」
アダムは確信した。
エリン・ハーマン。
エヴァンジェリン・フォン・グランディア。
そして、モニカの金環眼。
「問題は……」
アダムは資料を閉じた。
「エヴァンジェリン皇女は、なぜエンターナル国へ行ったのか」
そして――。
「なぜ、エリン・ハーマンとしてマクホランド王国にいたのか」
その答えを知っている人物がいる。
エリンと結婚した男。
モニカの父親。
ハーマン伯爵、ダンテ・ハーマン。
「……彼なら知っている」
アダムは立ち上がった。
もう、遠回りをする必要はない。
帝国の記録だけでは分からない。
エンターナル国にも記録がない。
ならば――。
本人を知る者に聞くしかない。
「ハーマン伯爵に会おう」
アダムは、決意を固めた。
その頃。
マクホランド王国のハーマン伯爵邸では、ダンテが一人、執務室にいた。
娘のことを考えながら、書類に目を通している。
そこへ――。
使用人が静かに扉を叩いた。
「旦那様。王立学園のアダム殿下から、面会のお申し出がございます」
「……アダム殿下?」
ダンテの手が止まった。
胸の奥に、嫌な予感が走る。
そして――。
ダンテはゆっくりと顔を上げた。




