第52話 皇女の肖像画
グランディア帝国。
アダムは帝国にいる信頼できる人物へ、ある調査を依頼していた。
調べてもらっているのは――。
行方不明になった皇女、エヴァンジェリン・フォン・グランディアについて。
これまでに分かっていることは少ない。
エヴァンジェリン皇女は、十五歳の頃に行方不明になった。
そして、その事件は当時「誘拐事件」として扱われていた。
「エヴァンジェリン皇女……」
アダムは報告書を読み進めていた。
しばらくして、調査を頼んでいた人物から一枚の紙と、丁寧に包まれた筒が届いた。
「これは?」
『皇女殿下の記録と、当時の肖像画です』
アダムは筒を開いた。
中から一枚の絵を取り出す。
「……」
そこに描かれていたのは、一人の少女だった。
長い髪。
穏やかな表情。
そして――。
「……この顔」
アダムは息を呑んだ。
頭に浮かんだのは、王立学園で見かける少女。
モニカ・ハーマン。
「……まさか」
もう一度、肖像画を見る。
そして、記憶の中のモニカと重ね合わせる。
「そっくりじゃないか……!!」
思わず声が漏れた。
なぜ今まで気がつかなかった。
顔立ち。
目元。
口元。
どこか儚げな雰囲気まで似ている。
「……いや」
アダムは一度、首を振った。
当然だ。
今までのモニカは、あまりにも痩せていた。
顔色も悪く、いつも俯いていた。
髪も整えられていなかった。
健康状態が悪かったせいで、本来の顔立ちが分かりにくかったのだ。
だが、今のモニカは違う。
食事をきちんと取るようになり、少しずつ身体も健康になっている。
表情も明るくなった。
だからこそ――。
「こんなに似ていたのか……」
アダムは肖像画を見つめた。
そして、ある疑問が浮かぶ。
「エヴァンジェリン皇女が……エリン・ハーマン?」
口に出した瞬間、背筋に何かが走った。
もし、そうだとしたら。
すべての辻褄が合う。
エリン・ハーマンには出身記録がない。
十七年前にダンテ・ハーマンと結婚している。
そして、エヴァンジェリン皇女はその頃にはすでに行方不明になっていた。
さらに――。
「金環眼……」
モニカに現れた金色の輪。
グランディア帝国の皇位継承者に現れるという、特別な瞳。
もしモニカの母親がエヴァンジェリン皇女なら――。
すべてが繋がる。
「……エリン・ハーマンが、エヴァンジェリン皇女だったとしたら」
アダムは息を呑んだ。
だが、まだ一つ分からない。
なぜ?
なぜ皇女が行方不明になったのか。
報告書には、当時の記録が残されている。
――エヴァンジェリン皇女、十五歳。
――エンターナル国へ向かった後、消息を絶つ。
――何者かによる誘拐の可能性。
「エンターナル国……」
アダムの目が鋭くなる。
そして、モニカの父・ダンテがエリンと出会った場所も――。
エンターナル国。
「……偶然なのか?」
アダムは肖像画を握りしめた。
もしエヴァンジェリン皇女がエリン・ハーマンなら。
彼女はなぜエンターナル国へいた?
誰が連れ去った?
そして――。
「なぜ、皇女を誘拐する必要があった?」
アダムの脳裏に、ある可能性が浮かんだ。
「まさか……」
その言葉の先を、アダムは口にできなかった。
ただ一つ。
確かめなければならない。
エンターナル国で何が起きたのか。
そして――。
エヴァンジェリン皇女は、なぜ「エリン・ハーマン」という女性として生きることになったのか。
アダムの調査は、ついに国境を越えた。
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