第49話 新しい形見
自室に戻ったモニカは、鏡の前に座っていた。
夕暮れの光が、静かに部屋へ差し込んでいる。
モニカは鏡の中の自分の瞳を見つめた。
そこには、金色の輪が浮かんでいる。
「……本当に、現れたんだ」
金環眼。
母・エリンの日記に書かれていたもの。
そして――。
「お母様と……同じ瞳」
モニカは、そっと自分の瞳に触れた。
不思議な気持ちだった。
怖い。
これから何が起こるのか分からない。
グランディア帝国のこと。
皇位継承のこと。
自分が争いに巻き込まれるかもしれないこと。
考えれば、胸が苦しくなる。
けれど――。
モニカは、もう一度鏡を見た。
「……お母様も、こんな風に見えていたのかな」
そう呟くと、自然と口元が緩んだ。
母が亡くなってから、もう十年。
モニカの手元に残っている母の形見は、ペンダントと髪飾り。
そして、母が残した日記。
どれも、モニカにとって大切な宝物だった。
でも――。
「新しい形見を……もらったみたい」
小さく呟く。
そう思うと、ほんの少しだけ嬉しかった。
この瞳を見るたびに、お母様を思い出せる。
まるで、母が自分のそばにいてくれるような気がした。
「……お母様」
モニカは鏡の中の自分に微笑んだ。
「私、ちゃんと元気になりましたよ」
毎日、ご飯を食べている。
学校にも楽しく通っている。
友達もできた。
そして――。
「お父様も、私を守ってくれています」
その言葉を口にすると、胸の奥が温かくなった。
もちろん、不安はある。
金環眼が現れたことで、これから何が起こるのか分からない。
怖くないと言えば嘘になる。
それでも――。
「大丈夫」
モニカは自分に言い聞かせるように頷いた。
「お父様がいてくださるもの」
十年間、誰にも守ってもらえなかった。
何をされても、ただ耐えるしかなかった。
けれど、今は違う。
自分を心配してくれる父がいる。
食事を用意してくれる料理長がいる。
そして、秘密を守ると約束してくれた友達もいる。
だから――。
「きっと、なんとかなるわ」
モニカは、もう一度笑った。
鏡の中で、金色の輪が夕日に照らされて輝いている。
それはまるで――。
遠い昔に見た、母の瞳のようだった。




