第48話 守る者
夕方。
アダムは、学園の帰り道を歩いていた。
頭から離れないのは、あの瞳だった。
モニカ・ハーマン嬢の瞳に現れた、金色の輪。
間違いなく、金環眼だった。
だが――。
「なぜだ……?」
グランディア帝国の皇族に現れるはずの金環眼が、なぜマクホランド王国の伯爵令嬢に現れたのか。
アダムには分からなかった。
だからこそ、本人の父親に話を聞く必要があると思った。
◇◇◇
「お待ちしておりました、アダム殿下」
ハーマン伯爵家。
執務室に入ると、ダンテが立っていた。
「突然の訪問をお許しください」
「構いません。それで……私に何の御用でしょうか?」
ダンテの表情には、明らかな警戒があった。
アダムは一度、息を整えた。
「モニカ嬢のことで、お聞きしたいことがあります」
「……」
ダンテの目が細くなる。
「昨日、私は見ました」
「何を?」
「モニカ嬢の瞳です」
ダンテの表情が変わった。
「……金環眼ですね」
「はい」
アダムは頷いた。
「間違いなく、金環眼でした」
しばらく沈黙が続いた。
「モニカ嬢自身も、そのことを知っているのでしょうか?」
「……はい」
「そうですか」
アダムは静かに息を吐いた。
「私は、モニカ嬢をどうこうするつもりはありません」
「では、なぜ?」
「知りたいのです」
アダムは真っ直ぐにダンテを見た。
「なぜ、彼女に金環眼が現れたのか」
「……」
「皇族以外に現れるはずのない瞳です」
ダンテは黙ったままアダムを見つめている。
「だから……何か理由があるはずだと思っています」
アダムは続けた。
「モニカ嬢の母君について、何かご存じですか?」
ダンテの瞳が揺れた。
しかし、それ以上のことは口にしなかった。
「なぜ、母親のことを?」
「金環眼の理由を知るためです」
アダムは正直に答えた。
「私はまだ、何も分かっていません」
その言葉に、ダンテは少しだけ目を伏せた。
「……そうですか」
「何か、心当たりがおありなのですか?」
「それは……」
ダンテは言葉を止めた。
エリンの日記。
グランディア帝国の皇女だった妻。
そして、娘に現れた金環眼。
すべてを話すわけにはいかなかった。
「申し訳ありませんが、今はお話しできません」
「分かりました」
アダムは無理に聞こうとはしなかった。
だが、その目には強い意志が宿っている。
「私は、もう少し調べてみます」
「……何をするつもりです?」
「モニカ嬢を傷つけるつもりはありません」
アダムははっきりと言った。
「ただ、真実を知りたいのです」
ダンテはアダムを見つめた。
「……私も一つ、殿下にお伝えしておきます」
「はい」
「私は、モニカを政治の道具にするつもりはありません」
低く、力のある声だった。
「金環眼がどれほどの意味を持つのかは知っています。ですが、娘は皇帝になるために生まれたのではない」
ダンテは拳を握った。
「モニカには、普通の人生を送ってほしい」
「……」
「だから私は、自分の人生を懸けてもモニカを守ります」
アダムはしばらく黙っていた。
そして、静かに頷いた。
「……分かりました」
「殿下?」
「私も、モニカ嬢を傷つけたいわけではありません」
アダムはそう言って、席を立った。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
アダムが部屋を出ていく。
ダンテは、その背中を見送った。
まだ、何も知られていない。
けれど――。
時間の問題かもしれない。
◇◇◇
屋敷を出たアダムは、空を見上げた。
「……やはり、何かある」
ダンテの反応。
モニカの金環眼。
そして、以前から感じていた不思議な懐かしさ。
「モニカ・ハーマン嬢……」
アダムは静かに呟いた。
母親について調べれば、何か分かるかもしれない。
「もう少し、調べてみよう」
まだ、母親の名前すら知らない。
それでもアダムは歩き出した。
その先に、自分の祖母アデライードと繋がる真実が待っていることを――。
まだ、知らなかった。




