第47話 それぞれの決意
夜。
モニカが自室へ戻った後も、ダンテは一人、執務室に残っていた。
机の上には、エリンの日記が置かれている。
ダンテは静かに表紙へ手を置いた。
「……ついに、現れたか」
モニカの瞳に現れた金環眼。
いつか現れるかもしれないと分かっていた。
それでも、実際に娘の瞳に現れた瞬間、胸の奥が締め付けられた。
これから何が起こるのか。
グランディア帝国に知られたら、モニカはどうなるのか。
ダンテは椅子に深く腰掛け、考え続けた。
マクホランド王国へ相談するという方法もある。
国王陛下に事情を話せば、モニカを守ってもらえるかもしれない。
王家の庇護があれば、グランディア帝国にも対抗できる。
「……いや」
ダンテはすぐに首を振った。
「駄目だ」
金環眼を持つ者が皇帝になれば、国が繁栄する。
そんな伝説がある。
もし王家がそれを知ったら。
モニカを守るのではなく、国のために利用しようとする可能性もある。
「モニカは……道具じゃない」
ダンテは拳を握りしめた。
モニカには、普通に生きてほしい。
学園へ通い、友人と笑い、好きなものを食べて。
これまで手に入れられなかった当たり前の毎日を、これからは失わせたくない。
「王家には……まだ話せない」
ダンテは、エリンの日記を見つめた。
妻が命を懸けて守ろうとした娘。
そして、自分が守ると約束した娘。
「エリン……」
静かに呟く。
「私は、もうあの子から何も奪わない」
ダンテは立ち上がった。
「何があっても、私が守る」
その決意だけは、揺らがなかった。
◇◇◇
一方。
アダムもまた、自室で一人、机に向かっていた。
目の前には、皇族に伝わる古い記録がある。
金環眼について記されたものだ。
何度読み返しても、答えは変わらない。
十五歳から十六歳。
皇族の血を引く者に現れる金環眼。
そして、その者が次期皇帝となる。
「……なのに、なぜモニカ・ハーマン嬢に?」
アダムは考え込んだ。
見間違いではない。
確かに見た。
あの金色の輪は、金環眼だった。
ならば――。
「モニカ嬢の家系に、グランディア帝国の血が……?」
その可能性を考える。
だが、分からない。
モニカの父親はハーマン伯爵。
それは知っている。
しかし、母親については、学園で話題になることもほとんどない。
「……母親」
アダムは呟いた。
そこを調べる必要がある。
アダムは侍従を呼んだ。
「少し調べてほしいことがある」
「はい、殿下」
「ハーマン伯爵家についてだ」
「ハーマン伯爵家、ですか?」
「ああ」
アダムは少し考えた。
「特に、モニカ・ハーマン嬢の母親について調べてほしい」
「承知いたしました」
侍従が頭を下げる。
部屋を出ていくのを見送った後、アダムは椅子に座り直した。
なぜなのか。
どうしてモニカに金環眼が現れたのか。
そして――。
なぜ自分は、彼女を見ると懐かしいと感じるのか。
「……何か、繋がっているのか?」
答えはまだ見えない。
けれど、アダムは確信していた。
モニカ・ハーマンという少女には、何か秘密がある。
そして、その秘密は――。
グランディア帝国と無関係ではない。
アダムは静かに窓の外を見つめた。
「……必ず、調べてみせる」
まだ、この時のアダムは知らなかった。
自分がこれから辿り着く名前が――。
幼い頃から、祖母アデライードの胸に残り続けている存在だということを。




