第46話 金環眼が現れた
お茶会を終えると、モニカは急いで帰る支度をした。
「リリアさん、今日はありがとうございました」
「ううん。私も楽しかったわ」
「また一緒にお茶しましょう」
「もちろん」
笑顔で別れたものの、モニカの胸は落ち着かなかった。
馬車に乗り込むと、モニカは自分の瞳に触れる。
リリアが見たという、金色の輪。
エリンの日記に書かれていた金環眼。
「……本当に、私にも現れたの?」
不安が胸を締め付ける。
早くお父様に伝えなければ。
馬車が屋敷に着くと、モニカは降りるなり、ダンテを探した。
「お父様は?」
「旦那様でしたら、執務室にいらっしゃいます」
「ありがとうございます!」
モニカは急いで執務室へ向かった。
「お父様!」
扉を開ける。
「どうした、モニカ?」
ダンテが驚いて顔を上げた。
「お話があります」
「何かあったのか?」
モニカは息を整える。
「今日、リリアさんと放課後にお茶をしていたんです」
「ああ」
「その時……」
モニカは自分の瞳を指した。
「リリアさんが、私の瞳に金色の輪が見えるって……」
「……何?」
ダンテの顔から、表情が消えた。
「金色の……輪?」
「はい」
モニカは頷いた。
「最初は私も何のことか分からなくて。でも、日記に書かれていた金環眼のことだと思います」
ダンテは立ち上がった。
「モニカ、こちらへ」
「はい」
窓際へ連れていかれ、ダンテはモニカの顔を光の当たる方向へ向けた。
そして――。
「…………」
息を呑んだ。
夕方の光を受けたモニカの瞳。
そこには、はっきりと金色の輪が浮かんでいた。
「……エリン」
ダンテの口から、妻の名前が漏れる。
あの日、初めて見たエリンの瞳。
美しいと思った、あの金色の輪。
それが今、娘の瞳にある。
「お父様……」
「……ああ」
ダンテはモニカを見つめる。
「間違いない」
「やっぱり……」
「ああ。お前に、金環眼が現れた」
モニカは静かに息を吐いた。
怖い。
けれど、不思議と少しだけ安心していた。
父が隣にいるから。
「……どうしましょう?」
モニカが尋ねる。
ダンテはしばらく答えられなかった。
エリンの日記。
グランディア帝国。
そして、金環眼。
すべてが現実になった。
「まずは、誰にも知られないようにしよう」
「はい」
「リリアにも秘密にしてもらったんだな?」
「はい。誰にも言わないって約束してくれました」
「そうか」
ダンテは頷いた。
「ありがとう、モニカ」
「何がですか?」
「私に話してくれて」
モニカは少し笑った。
「当たり前です」
ダンテは娘の肩に手を置いた。
「大丈夫だ」
そう言ったものの――。
ダンテ自身の胸には、これから起こることへの不安が渦巻いていた。
◇◇◇
一方、その頃。
アダムは一人、学園の廊下を歩いていた。
頭から離れない。
あの瞳。
間違えるはずがない。
「……金環眼」
グランディア帝国の皇族に伝わる、皇位継承者の証。
それが――。
「なぜ、モニカ・ハーマン嬢に?」
アダムには分からなかった。
モニカはグランディア帝国の皇族ではない。
少なくとも、アダムはそう認識している。
それなのに、あの瞳は確かに金環眼だった。
そして、以前から感じていた不思議な感覚。
懐かしい。
どこかで見たことがあるような感覚。
「……まさか」
アダムは足を止めた。
モニカの家系に、グランディア帝国の血が入っている?
だとすれば、なぜ?
誰が?
何のために?
考えれば考えるほど、分からなくなる。
けれど、一つだけ確かなことがある。
あの金環眼を見なかったことにはできない。
「調べる必要があるな」
アダムは静かに呟いた。
モニカ・ハーマン。
彼女はいったい、何者なのか。
そしてなぜ――。
あの瞳を持っているのか。
アダムは、その答えを探すことを決めた。




