第42話 父と娘の約束
夕食を終えた後。
モニカとダンテは、いつものように執務室で話をしていた。
「モニカ」
「はい?」
「アダム殿下とは……どうなんだ?」
「……え?」
モニカは目を瞬かせた。
「どういうことでしょう?」
「いや……」
ダンテは少し言葉を選んだ。
「金環眼のことで、気になることがあってな」
「金環眼……」
モニカの表情が少し変わる。
「アダム殿下には、まだ現れていないのだろう?」
「聞いていないですね」
「そうか……」
ダンテは静かに頷いた。
しばらく考え込んでいたモニカが、ふと顔を上げる。
「お父様は……」
「ん?」
「アダム殿下に金環眼が現れなくて、私に現れた時のことを考えているんですね?」
ダンテは黙ってモニカを見つめた。
「ああ……」
やがて、小さく頷く。
「さすがに、何も考えないわけにはいかなくてな」
「……そうですよね」
モニカも静かに頷いた。
しばらく、二人の間に沈黙が落ちる。
モニカは自分の手を見つめた。
もし、本当に自分の瞳に金色の輪が現れたら。
その時、自分の人生はどうなるのだろう。
皇帝になる可能性。
グランディア帝国。
母・エリンが逃げ出した理由。
まだ知らないことは多い。
それでも――。
モニカは顔を上げた。
「……もし、本当に私に金環眼が現れたら」
「モニカ……」
「その時に考えればいいんじゃないでしょうか?」
ダンテは目を見開いた。
「まだ、現れたわけではありませんもの」
モニカは少し笑った。
「それに……」
一度言葉を止める。
「お父様が守ってくださるんでしょう?」
ダンテの胸が、大きく揺れた。
「ああ」
迷うことなく答える。
「必ず守る」
「だったら、私は大丈夫です」
モニカは笑った。
その笑顔を見て、ダンテも微笑む。
「強くなったな、モニカ」
「そうでしょうか?」
「ああ」
「……お父様がいてくださるからです」
ダンテは言葉を失った。
そして、静かに娘の頭へ手を伸ばす。
「ありがとう」
「はい」
しばらくして、モニカがふと思い出したように尋ねた。
「お父様」
「どうした?」
「金環眼って……綺麗なんですよね?」
「ああ」
ダンテは少し遠くを見るような目をした。
「エリンの瞳は、とても綺麗だった」
「お母様の……」
「そうだ」
ダンテは微笑んだ。
「初めて見た時は、ただ綺麗だと思った」
「……」
「金色の輪が、光を受けるたびに輝いてな」
モニカは静かに聞いていた。
「だから……」
ダンテはモニカを見る。
「もしお前に現れたとしても、私はその瞳を恐れたりはしない」
「お父様……」
「ただ、お前を守る」
モニカは嬉しそうに微笑んだ。
「はい」
父と娘は、静かに見つめ合った。
金環眼が現れるのか。
それは、まだ分からない。
けれど――。
二人の間には、確かな約束があった。
何が起きても、互いに支え合う。
それだけは、変わらなかった。




