第40話 皇族に伝わる金環眼 ―アダムSide―
グランディア帝国。
皇族の間には、古くから伝わる伝説がある。
――金環眼を持つ皇帝の治世は、帝国が大きく発展する。
争いは少なく、天候にも恵まれる。
作物は豊かに実り、人々の暮らしも安定する。
金環眼を持つ皇帝が治めた時代は、必ず帝国が大きく発展してきた。
だからこそ、金環眼は皇族にとって特別な意味を持つ。
金環眼。
それは、瞳の中に金色の輪が現れる、皇位継承者の証。
ただし、生まれた時から現れているわけではない。
皇族の血を引く者が十五歳から十六歳になる頃に、突然現れる。
そして――。
金環眼が現れた皇子、あるいは皇女が、長子であるかどうかに関係なく次期皇帝となる。
だが。
ここ三代、金環眼を持つ皇帝は現れていない。
現在の皇帝である父上にも、金環眼は現れなかった。
その前の皇帝にも。
さらに、その前の皇帝にも。
だからこそ、帝国内では金環眼を持つ皇帝が再び現れることを、今も多くの者が願っている。
そして今――。
私は十五歳。
金環眼が現れてもおかしくない年齢になっている。
「……私に、現れるのだろうか」
執務室の窓辺に立ち、アダムは自分の瞳を指先でなぞった。
今のところ、何も変化はない。
もちろん、まだ一年ほど時間はある。
私には二歳になる弟もいる。
もし私に現れなかったとしても、弟に現れる可能性はある。
その時は、弟が次の皇帝になる。
年齢も、長子であるかどうかも関係ない。
金環眼を持つ者が皇帝になる。
それが、グランディア帝国の決まりだ。
「……そうなったら、私は兄として支えるだけだな」
そう呟いて、アダムは窓の外へ目を向けた。
けれど、胸の奥には小さな不安が残っている。
自分に現れるのか。
それとも弟に現れるのか。
それは、誰にも分からない。
◇◇◇
王立学園。
授業を終え、昼休みになる。
アダムは教室の窓から中庭を眺めていた。
ふと、いつものベンチに目が留まる。
そこにはモニカ・ハーマン嬢が座っていた。
そして最近は、一人ではない。
隣には、リリア・ウェストン嬢がいる。
二人で楽しそうに話をしながら、昼食を食べている。
モニカ嬢は、以前よりよく笑うようになった。
少し前までは、どこか遠慮がちで、人と距離を置いているように見えた。
だが最近は違う。
テストでは二位という成績を取り、学園でも少しずつ自信を持ち始めている。
そして、友人もできたようだ。
「……友人ができたのだな」
アダムは小さく呟いた。
モニカが笑う。
リリアも笑う。
その様子を見ていると、不思議とこちらまで穏やかな気持ちになった。
「……以前より、ずっと楽しそうだ」
そう思ったところで、アダムは自分でも少し驚いた。
なぜ、自分は彼女のことをこんなにもよく見ているのだろう。
同じクラスで過ごしているうちに、自然と目で追うようになっていた。
「まあ……いいか」
アダムは再び中庭へ目を向けた。
モニカは楽しそうにパンを食べている。
その姿を見て、アダムは小さく笑った。
◇◇◇
放課後。
アダムは一人で廊下を歩いていた。
ふと、窓から差し込んだ光が目に入る。
アダムは足を止めた。
窓ガラスに映った自分の瞳を見る。
そこには――。
いつもの自分の瞳しかない。
「……まだ、か」
十五歳。
金環眼が現れる可能性は、まだ残っている。
自分に現れるのか。
それとも弟に現れるのか。
あるいは――。
誰にも現れないまま、四代目を迎えるのか。
アダムには分からなかった。
ただ一つ分かっていることがある。
もし金環眼が現れたなら。
その者が、次の皇帝になる。
それが自分であっても。
弟であっても。
アダムは、その運命を受け入れるつもりだった。
窓の外には、夕暮れの空が広がっている。
アダムは静かにその空を見つめた。
そしてふと、昼休みに見た少女の笑顔を思い出した。
「……モニカ・ハーマン嬢、か」
小さく名前を呟き、アダムは歩き出した。




