第36話 新しい1日
翌朝。
モニカは身支度を整えると、いつものように学園へ向かって歩き始めた。
しばらく歩いていると、聞き慣れた声が飛んでくる。
「モニカちゃん!」
振り向くと、いつも顔を合わせる店の人が笑顔で手を振っていた。
「おはようございます」
「おはよう、モニカちゃん。聞いたよ!」
「……何をですか?」
「テスト、二位だったんだって?」
モニカは少し恥ずかしそうに頷いた。
「はい……」
「すごいじゃない!」
「頑張ったんだねぇ」
「モニカちゃん、偉いね!」
次々に掛けられる温かな言葉に、モニカは嬉しくなった。
「ありがとうございます」
「これからも頑張ってね!」
「はい!」
モニカは笑顔で手を振った。
変わらない街の人たちが、モニカは好きだった。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、モニカちゃん!」
「気をつけてね!」
「はい!」
モニカは手を振りながら、学園へ向かった。
◇◇◇
学園へ到着すると、少し違う空気を感じた。
校門をくぐったところから、周囲の視線が集まってくる。
「……あの方よね?」
「そう。テストで二位だった……」
「本当に?」
モニカは少し緊張しながら教室へ向かった。
教室へ入ると、さらに視線が集まる。
「おはようございます」
モニカが挨拶すると、何人かの生徒が返してくれた。
その時だった。
「ねえ、モニカさん」
教室の奥から声が掛かった。
振り返ると、数人の令嬢がこちらを見ている。
「何でしょう?」
「テスト、二位だったんですってね」
「……はい」
「すごいですわね」
笑顔ではある。
けれど、その声には棘があった。
「でも……ちょっと不思議じゃありません?」
モニカは黙って相手を見る。
「今まで三十位が最高だったのに、いきなり二位でしょう?」
「……」
「まさかとは思いますけれど――」
令嬢は口元に手を当てた。
「カンニングでもしたのではありません?」
教室の空気が凍りついた。
モニカの胸が、どくんと鳴る。
以前の自分なら、何も言えず俯いていたかもしれない。
けれど――。
モニカはゆっくりと顔を上げた。
「……していません」
静かな声だった。
「え?」
「私は、カンニングなどしていません」
令嬢は眉を上げる。
「でも、今まで三十位だったのでしょう?」
「はい」
モニカは頷いた。
「ですから、私自身も驚いています」
「だったら――」
「ですが」
モニカは静かに言葉を続けた。
「私は、自分で勉強しました」
教室が静まり返る。
「分からないところは先生に質問しました。家でも勉強しました」
モニカは胸の前で手を握った。
「だから……二位になれたことは、嬉しいです」
令嬢は何か言おうとした。
その時――。
「カンニングとは、随分と失礼な言葉ですね」
教室の入り口から声がした。
振り向くと、担当教師が立っていた。
「先生……」
「先日の試験については、答案だけでなく試験中の様子も確認しています」
教師は教室を見渡した。
「モニカ嬢に不正があったという事実は、一切ありません」
教室がざわめく。
「今回の順位は、本人の努力によるものです」
「……!」
モニカの目が見開かれた。
「二位という結果を、本人が誇って何が悪いのですか?」
令嬢は気まずそうに視線を逸らした。
モニカは胸の奥が熱くなるのを感じていた。
――私は、頑張った。
そのことだけは、誰に何を言われても変わらない。
「モニカ」
隣の席の令嬢が、小さな声で話しかけてきた。
「二位、本当にすごいと思うわ」
「ありがとう」
モニカは笑った。
少し前なら、こんなふうに笑えなかったかもしれない。
けれど今は違う。
街の人たちが喜んでくれた。
先生も、自分の努力を認めてくれた。
だから――。
これからも頑張ろう。
自分のために。
そしていつか、胸を張ってお父様にも「頑張った」と言えるように。
モニカは前を向いた。
新しい一日が始まった。




