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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第35話 二人で考える

夕食を終え、モニカとダンテは執務室へ戻っていた。


 以前なら、食事が終わればそれぞれ別の場所へ向かっていただろう。


 けれど今日は、二人とも自然と同じ場所にいた。


 モニカはソファに座り、昼間に読んだ鍵付きの日記を思い出していた。


 しばらく黙っていたが、やがて顔を上げる。


「お父様」


「どうした?」


「私にも……金の輪が現れる可能性はあるんですよね?」


 ダンテは少し考えてから、頷いた。


「ああ。可能性はあると思う」


「やっぱり……」


 モニカは自分の瞳に触れた。


 今まで何度も鏡を見てきた。


 けれど、金色の輪らしきものは見つからない。


「お母様には、十五歳か十六歳くらいの頃に現れたんですよね?」


「ああ。日記に書かれていた内容から考えると、その頃だと思う」


「私は、今十五歳です」


「そうだな」


 モニカは少しだけ安心したように息を吐いた。


「……じゃあ、今のところは大丈夫なんですね」


「少なくとも、今はまだ現れていない」


 ダンテも、少しだけ表情を緩めた。


 エリンと同じ年齢になったモニカ。


 それでも、今のところ瞳に金色の輪はない。


 その事実は、二人にとって小さな安心だった。


 けれど――。


「ただ……」


 ダンテが続ける。


「まだ一年ほどある」


 モニカの表情が少し曇った。


「……そうですよね」


 エリンに金の輪が現れたのが十五歳から十六歳頃。


 ならば、モニカにもこれから現れる可能性はある。


「それに……」


 ダンテはモニカを見た。


「最近のお前は、身体の状態も以前とは違う」


「身体の状態?」


「ああ。今は毎日、きちんと食事を取っているだろう?」


「はい」


「以前は、十分な食事を取れていなかったと聞いている」


 モニカは少し俯いた。


 今では朝食も昼食も夕食も、当たり前のように食べている。


 食事が足りないと思うこともない。


「栄養状態が良くなったことで……身体が成長して、もし金の輪が現れる時期が来ているのなら、以前より現れる可能性が高くなっているのかもしれない」


「……なるほど」


 モニカは自分の手を見つめた。


「じゃあ、今まで現れていなかったからって、安心はできないんですね」


「ああ」


 ダンテは正直に答えた。


「だが、恐れる必要もない」


「……え?」


「もし現れたとしても、今のお前は一人じゃない」


 モニカが顔を上げる。


 ダンテは、まっすぐモニカを見つめていた。


「私がいる」


「お父様……」


「何が起きるのかは分からない。だが、エリンが一人で抱えたことを、お前まで一人で抱える必要はない」


 その言葉に、モニカの胸が温かくなる。


「……二人で考えるんですね」


「ああ」


 ダンテは頷いた。


「二人で考える」


 モニカは、ふっと笑った。


「それなら……少し安心します」


「そうか」


「はい」


 少しの沈黙。


 けれど、今までのような気まずい沈黙ではなかった。


 モニカは、ふと思い出したように口を開く。


「お父様」


「ん?」


「明日の朝食って、何ですか?」


 ダンテは一瞬、目を丸くした。


 それから、思わず笑った。


「……もう明日の朝食の心配か?」


「だって、ここの朝食、美味しいですから」


「そうか」


「はい」


 モニカも笑った。


 ほんの少しだけ。


 けれど、その笑顔を見たダンテの胸には、温かなものが広がっていった。


 十年間。


 埋めることのできない時間は、確かに存在する。


 それでも――。


 これから先の時間まで、失う必要はない。


 ダンテは、そう思った。


 そしてモニカもまた、少しずつ感じ始めていた。


 父と過ごす時間は、思っていたほど悪いものではないのかもしれない、と。

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