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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第25話 図書室で勉強します

朝食を終えたモニカは、少し迷いながらダンテに声をかけた。


「お父様」


「どうした?」


「あの……お願いがあります」


 ダンテは手を止め、モニカを見る。


「言ってみなさい」


「もうすぐ学園でテストがあるんです」


「ああ」


「それで……放課後、図書室で勉強してもいいでしょうか?」


 モニカは少し緊張しながら尋ねた。


 今まで、放課後は真っ直ぐ屋敷へ帰っていた。


 徒歩で帰っていたため、学園に残って勉強する時間などなかったのだ。


「もちろんだ」


 あっさりと許可され、モニカは目を丸くした。


「本当ですか?」


「勉強したいのだろう?」


「はい!」


 嬉しそうに頷くモニカを見て、ダンテも微笑んだ。


「少し帰りが遅くなるな」


「はい。ですから……迎えは……」


 モニカが言い終える前に、ダンテが答えた。


「終わる頃に迎えを寄越そう」


「……!」


 モニカの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます、お父様!」


 その笑顔を見て、ダンテは目を細めた。


「気をつけて行ってきなさい」


「はい!」


 学園に着くと、モニカはいつも通り授業を受けた。


 けれど――。


 以前とは、少し違う。


 身体が軽い。


 朝食をきちんと食べているからだろう。


 授業中に空腹でお腹が痛くなることもない。


 頭もよく働く。


 先生の説明が、いつも以上にすんなり入ってくる。


「……不思議」


 モニカは小さく呟いた。


 そして放課後。


 モニカは図書室へ向かった。


 静かな室内。


 本棚に囲まれた空間は、モニカにとって心地よかった。


 今まで屋敷でも、時間があれば勉強していた。


 他にすることがなかったからだ。


 けれど、今は違う。


 勉強することを、自分のために選べる。


 モニカは席につき、教科書を開いた。


「……モニカ嬢?」


 しばらくすると、聞き覚えのある声がした。


 顔を上げる。


「アダム殿下」


 そこにはアダムが立っていた。


「まだ帰らないのか?」


「はい。テストが近いので、勉強してから帰ります」


「ここで?」


「はい」


 アダムはモニカの向かいの席に腰を下ろした。


 そして改めてモニカを見る。


「……やっぱり変わったな」


「え?」


「少し前に会った時より、顔色が良い」


 モニカは自分の頬に手を当てた。


「そうですか?」


「ああ」


 アダムは頷く。


「以前はもっと顔色が悪かった。それに……」


 少し考えるようにモニカを見る。


「痩せていた」


「……」


「今も細いが、前ほどではない」


 モニカは黙って聞いていた。


「髪も少し艶が出ているし、目にも力がある」


「そんなところまで分かるんですか?」


「毎日見ているわけではないが、変化くらいは分かる」


 アダムはそう言って、少し笑った。


「それに、よく笑うようになった」


 モニカは驚いた。


「……私、そんなに変わりましたか?」


「ああ」


 アダムは迷いなく答えた。


「以前は、話しかけてもどこか遠慮しているように見えた」


「……」


「だが、今は違う」


 モニカは少し考えてから、嬉しそうに笑った。


「お父様が……変えてくださったんです」


「伯爵が?」


「はい」


 モニカは頷いた。


「毎日ちゃんと朝ごはんを食べさせてくれて、お昼のお弁当も用意してくださって……」


 話しているうちに、自然と笑顔になる。


「それに、部屋も変えてくださいました」


「そうか」


「今までとは全然違うんです。明るくて、暖かくて……ベッドもふかふかで」


「……ベッド?」


「はい」


 モニカは嬉しそうに頷く。


「眠るのが楽しみなんです」


 アダムは一瞬、言葉を失った。


 ベッドで眠ることを、そんなに嬉しそうに話す令嬢を見たことがなかった。


「……そうか」


「はい」


 モニカは照れたように笑った。


「お父様が、私のことを気にかけてくださっているのが分かるんです」


 アダムは黙ってモニカを見つめた。


 以前の彼女を知っているからこそ、その変化がよく分かる。


 顔色だけではない。


 モニカ自身が、明るくなった。


「良かったな、モニカ嬢」


「はい!」


 その返事にも迷いがなかった。


 アダムが図書室を出た後、モニカは再び教科書に向き合った。


 テストまで、もうすぐ。


 モニカは一冊の本を閉じると、次の教科書を開いた。


 以前から勉強はしてきた。


 屋敷ですることがなかったから。


 けれど今は――。


 自分のために勉強したいと思う。


 そしてもう一つ。


 最近、毎日自分を気にかけてくれる人がいる。


「……お父様に、良い報告がしたい」


 モニカは小さく呟いた。


 少しだけ胸が高鳴る。


 自分はどこまでできるだろう。


 以前なら、そんなことを考えもしなかった。


 けれど今は違う。


 モニカは教科書を開き直した。


 そして数日後。


 いよいよ、テスト本番の日がやってきた。


 教室の空気が、いつもとは違う。


 緊張した顔で問題用紙を待つ生徒たち。


 モニカも深呼吸をした。


 大丈夫。


 勉強してきた。


 食事もちゃんと食べた。


 身体も以前よりずっと元気だ。


 そして――。


 今日は自分のためにも。


 お父様のためにも。


 頑張る。


 先生が問題用紙を配り始める。


 モニカは背筋を伸ばした。


「……頑張ります」


 小さく呟いて、問題用紙を受け取った。


 さあ――。


 テスト本番だ。

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