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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第24話 モニカの小さな幸せ

夕食の席で、モニカはふと思った。


 そういえば――。


「お父様」


「ん?」


 まだ少し照れながら、モニカは尋ねる。


「最近、クラリッサ様とアリシア様をお見かけしません」


 ダンテの手が止まった。


「ああ」


 短く答えると、モニカを見る。


「二人は、もうこの屋敷にはいない」


「……え?」


 モニカは目を瞬いた。


「どうして……ですか?」


 ダンテは少しだけ沈黙した。


 そして、静かな声で告げる。


「もう、お前を苦しめる者をこの屋敷に置いておくつもりはない」


「……」


 モニカは言葉を失った。


 自分のために。


 お父様が……?


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「……お父様が、私のために……」


「ああ」


 ダンテはそれ以上、多くを語らなかった。


 モニカも、それ以上は聞かなかった。


 ただ、嬉しかった。


 自分のことを考えてくれる人がいる。


 それだけで、胸がいっぱいになった。


 夕食を終え、モニカは新しい部屋へ戻った。


 扉を閉める。


 静かな部屋。


 明るいランプ。


 そして――。


 ふかふかのベッド。


「……」


 モニカはそっと腰を下ろした。


 柔らかい。


 そのまま身体を横たえる。


「……ふかふか……」


 思わず小さな笑みがこぼれた。


 以前のベッドとは、何もかも違う。


 冷たくて硬い寝台ではない。


 暖かく、身体を包み込んでくれる。


 布団を胸元まで引き上げる。


「……幸せ」


 こんなふうに安心して眠れる夜が来るなんて。


 モニカは目を閉じた。


 明日も学園へ行ける。


 朝には温かな食事が待っている。


 帰れば、この部屋がある。


 そして――。


 自分を守ってくれる、お父様がいる。


「おやすみなさい……お父様」


 小さく呟いて、モニカは眠りについた。


 ――数日後。


 ダンテは執務室で、机の上に置かれた二つの品を見つめていた。


 オルゴール。


 そして、モニカが身につけていたペンダント。


 どちらにも刻まれている紋章。


 グランディア帝国の紋章。


 それは間違いない。


 ダンテが考えているのは、紋章そのものではない。


 なぜ――。


 エリンが、この紋章を持っていたのか。


 なぜ、モニカのペンダントにも同じ紋章が刻まれているのか。


 そして、オルゴールの中にある王冠をかぶった少女は誰なのか。


「……エリン」


 妻は何も語らなかった。


 ダンテに残した手紙にも、すべては書かれていない。


 それでも、何かを残そうとしていたことだけは分かる。


 ダンテは椅子から立ち上がった。


「……グランディア帝国に詳しい者に聞くか」


 自分一人で考えていても答えは出ない。


 ならば、知っている者に尋ねればいい。


 ただし――。


 エリンの過去を探っていることを、帝国側に知られるわけにはいかない。


 慎重に調べる必要がある。


 そして、もう一つ。


「シルビーも探さなければな」


 エリンのことを知る人物。


 そして、モニカの幼少期を知る人物。


 シルビーの行方を追うことも、きっとエリンの秘密へ繋がる。


 ダンテは二つの品を大切にしまった。


 一方、その頃。


 モニカは学園へ向かっていた。


 以前とは、少しだけ違う。


 きちんと朝食を食べている。


 昼には弁当もある。


 数日間、十分な食事を取るようになったことで、身体にも少しずつ変化が出始めていた。


 以前より疲れにくい。


 鏡を見ると、青白かった顔にも少しずつ血色が戻っている。


 髪にも艶が出てきた気がする。


 何より――。


 自分でも分かるくらい、身体が軽い。


「今日も頑張ろう」


 モニカは小さく笑った。


 授業が終わり、教室を出たモニカが廊下を歩いていると――。


「……あれ?」


 声をかけてきたのは、アダムだった。


「モニカ嬢」


「アダム殿下」


 モニカが足を止める。


 アダムは少しの間、モニカの顔を見つめた。


「……少し変わったな」


「え?」


 モニカは首を傾げる。


「顔色が良くなった」


「……分かりますか?」


「ああ」


 以前、屋敷まで送り届けた時の姿を思い出す。


 あの時は、ひどく痩せていて、今にも倒れてしまいそうだった。


 けれど今は違う。


 まだ細身ではあるものの、頬には少し血色が戻っている。


 そして何より――。


 笑顔が増えた。


「以前より、元気そうだ」


「はい!」


 モニカは嬉しそうに笑った。


「最近、毎日ちゃんとご飯を食べているんです」


「……そうか」


 アダムは少し驚いた。


 たった数日。


 それでも、これほど変わるものなのか。


「それなら良かった」


「ありがとうございます」


 モニカはぺこりと頭を下げる。


 その姿を見ながら、アダムは思った。


 やはり――。


 あの令嬢は、何かがおかしい。


 伯爵家の令嬢とは思えないほど痩せていた。


 けれど今は、少しずつ本来の姿を取り戻し始めている。


 そして、その笑顔を見ていると――。


 なぜか、少し安心した。


「では、また」


「はい。アダム殿下もお気をつけて」


 モニカが歩き出す。


 アダムはその後ろ姿を見送った。


 ほんの少しずつ。


 モニカの日常は、変わり始めていた。

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