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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第22話 明るく暖かい部屋

朝。


 モニカは目を覚ますと、いつものように身支度を整えた。


 そして部屋を出たところで、ふと足を止める。


 今日は、何かが違う。


 廊下を歩いていると、使用人が声をかけてきた。


「モニカお嬢様、おはようございます」


「……おはようございます」


 少し戸惑いながら挨拶を返す。


 食堂へ向かうと、テーブルの上には朝食が用意されていた。


「……朝ごはん」


 温かいスープ。


 焼きたてのパン。


 卵料理に果物。


 モニカは思わず笑顔になった。


「今日も……食べられる」


 席に着き、ゆっくりと食事をする。


 昨日だけではなかった。


 今日も、ちゃんと食べられる。


 それだけで胸が温かくなった。


 食事を終えると、侍女から告げられた。


「モニカお嬢様。本日は馬車をご用意しております」


「馬車……?」


「旦那様のご命令です」


 昨日、伯爵様が馬車を用意すると言っていた。


 きっと、私が毎日歩いて学園へ通っていることを心配してくれている。


 その気持ちが嬉しかった。


 けれど――。


「あの……」


「はい?」


「今日は歩いて行ってもいいでしょうか?」


「歩いて、ですか?」


「はい」


 モニカは少しだけ勇気を出した。


「街の人たちに、会いたいんです」


 あの街の人たちは、いつも私に優しくしてくれた。


 挨拶をすれば笑顔で返してくれる。


 私のことを、いつも温かく見守ってくれている。


「……分かりました。旦那様には私からお伝えします」


「ありがとうございます!」


 モニカは嬉しそうに笑った。


 屋敷を出る。


 いつもの道を歩く。


「おはようございます!」


 元気よく挨拶をすると、いつもの声が返ってきた。


「あらっ、モニカちゃん! 今日は元気ね!」


「はい!」


 モニカは胸を張って答えた。


「朝ごはんを食べましたから!」


「あらまあ!」


 街の人たちが顔を見合わせる。


 そして、嬉しそうに笑った。


「それはよかったわねぇ」


「ちゃんと食べるんだよ」


「はい!」


 モニカも笑う。


 いつもの道。


 いつもの街。


 でも今日は、少しだけ違って見えた。


 足取りも軽い。


 朝ごはんを食べたからだ。


 それに――。


 自分を気にかけてくれる人がいる。


 そのことが、何より嬉しかった。


 学園に着いても、いつものように疲れ切ってはいなかった。


「……今日は、なんだか元気」


 授業にも集中できる。


 先生の話が、いつもより頭に入ってくる。


 昼休みには、用意されていたお弁当を開いた。


「……お弁当まで」


 色とりどりのおかず。


 モニカは嬉しくなった。


 朝ごはんを食べて。


 昼ごはんまで用意されている。


 それが、こんなにも嬉しいことだった。


 そして授業が終わった。


 モニカは鞄を持ち、学園の門へ向かう。


 すると――。


 一台の馬車が停まっていた。


「モニカお嬢様」


 御者が頭を下げる。


「お疲れ様です」


「……私に?」


「はい。旦那様からのお迎えです」


 モニカは少し驚いた。


 朝は歩いて行くことを許してくれた。


 でも、帰りは馬車を用意してくれている。


「……ありがとうございます」


 モニカは馬車に乗り込んだ。


 屋敷に着く。


 馬車から降りると、待っていた使用人が深々と頭を下げた。


「お帰りなさいませ、モニカお嬢様」


「ただいま帰りました」


 その言葉を口にした瞬間。


 モニカは、胸の奥が少しくすぐったくなった。


 屋敷に帰ってきて、自分を迎えてくれる人がいる。


 それが嬉しかった。


「旦那様がお待ちです」


「……伯爵様が?」


「はい。食堂でお待ちです」


「食堂……?」


 モニカは首を傾げた。


 これまで、自分が食堂へ呼ばれることなどほとんどなかった。


 言われるまま廊下を歩く。


 そして――。


 いつもの自分の部屋の前を通り過ぎた。


「あれ?」


 モニカが足を止める。


「私の部屋……」


「モニカお嬢様」


 ローレンスが声をかける。


「本日より、お部屋が変わります」


「……え?」


「旦那様のご指示です」


「私の……部屋が?」


「はい」


 ローレンスが、廊下の先にある扉を開けた。


 その瞬間――。


「……わぁ……!」


 モニカの目が大きく開く。


 大きな窓から、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいる。


 部屋にはいくつものランプが灯され、暖かな光に包まれていた。


 明るい色のカーテン。


 綺麗に整えられたベッド。


 そして、勉強をするための新しい机。


「うわぁ……✨」


 モニカは思わず部屋の中へ入った。


 窓辺まで歩いていく。


「こんなに……明るい」


 振り返る。


「ここが……私の部屋?」


「はい」


 ローレンスが微笑む。


「旦那様が、お嬢様のためにご用意されました」


「……伯爵様が?」


「はい」


 モニカは部屋を見回した。


 今まで暮らしていた部屋とは、まるで違う。


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「……嬉しい」


 小さく呟く。


 窓の外には、夕暮れの空が広がっている。


 その光とランプの明かりが、部屋を優しく照らしていた。


 まるで――。


 長い間、暗い場所にいた自分を迎え入れてくれるようだった。


「ありがとうございます……伯爵様」


 その声には、今までにはなかった温かな響きがあった。


 しばらく部屋を眺めていると、壁際に置かれたクローゼットが目に入った。


 扉を開ける。


「……!」


 中には、何着もの新しい洋服が掛けられていた。


 どれも今まで着ていたものよりずっと綺麗で、可愛らしい。


「これ……着てもいいんですか?」


「はい。すべてお嬢様のお洋服です」


 侍女が微笑む。


「ドレスは採寸が必要ですので、もう少しお日にちがかかります」


「……え?」


 モニカは目を丸くした。


「ドレス……?」


「はい」


「私に……ドレス……?」


 自分がドレスを着る。


 そんなこと、考えたこともなかった。


「お嬢様。お着替えになりましたら、食堂へお越しください。旦那様がお待ちですので」


「……はい」


 モニカは新しい服を一着、そっと手に取った。


そして――。


 モニカの新しい生活が、始まった。

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