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モニカ・ハーマン物語~虐げられた伯爵令嬢は、亡き母の秘密と金環眼に導かれて  作者: 紅しょうが


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第21話 君に誓う

翌朝。


 ダンテは執務室にローレンスを呼んだ。


「昨日までに調べた記録を、もう一度確認したい」


「はい」


 ローレンスは数冊の帳簿を机に並べた。


「モニカお嬢様に支給されていた生活費については、ほぼ全容が分かりました」


「クラリッサが管理していたんだな?」


「はい」


「そして、その金のほぼ全額がクラリッサとアリシアの衣服や宝飾品に使われている」


「間違いありません」


 ダンテは静かに目を閉じた。


 もう迷う必要はなかった。


「クラリッサとアリシアには、今日中に屋敷を出てもらう」


「……承知しました」


「それと、横領した金についてはフォーン子爵家へ請求する」


「かしこまりました」


 ローレンスが一礼する。


 だが、ダンテにはもう一つ、やらなければならないことがあった。


 モニカの部屋。


 ダンテは、久しぶりにその扉の前に立っていた。


 先日。


 この部屋を見た。


 窓からほとんど光が入らず、古びた家具しか置かれていない部屋。


 あの時も、おかしいとは思った。


 だが、証拠がなかった。


 クラリッサに任せている以上、何も言えなかった。


 いや。


 言おうとしなかった。


「……」


 ダンテは扉を開けた。


 薄暗い部屋。


 簡素なベッド。


 古い机。


 必要最低限の家具しかない。


 ここで、モニカは十年間暮らしていた。


「……もういい」


 ダンテは静かに呟いた。


「ここで暮らす必要はない」


 窓を開ける。


 朝の光が部屋へ差し込んだ。


 まるで、長い間閉ざされていた空気を入れ替えるように。


「この部屋は使わない」


 ローレンスが頷く。


「では、どちらのお部屋を?」


「南側の部屋を」


「……あの部屋ですか?」


「ああ」


 日当たりがよく、庭園を見渡せる部屋。


 これまで客間として使われていた部屋だった。


「モニカの部屋にする」


「承知いたしました」


「家具も新しくする。机も、ベッドも、必要なものを揃えてくれ」


「かしこまりました」


 ダンテはもう一度、古い部屋を見渡した。


「……ここに、モニカを置いたままにはしない」


 そう言って、扉を閉めた。


 その頃。


 クラリッサの部屋では――。


「嘘よ!」


 クラリッサが声を荒らげていた。


「私は伯爵夫人なのよ!」


「奥様……」


 侍女が困ったように立ち尽くす。


「旦那様が……本日中に屋敷を出るようにと」


「そんなはずないわ!」


 クラリッサは首を振った。


「十年間、私はこの家の夫人として――」


「クラリッサ」


 低い声が響いた。


 振り返ると、そこにはダンテが立っていた。


「旦那様……」


「君は伯爵夫人ではない」


「……!」


「エリンが亡くなった後、私は君を妻に迎えたことは一度もない」


 クラリッサの顔が青ざめる。


「それでも私は、この家を支えて――」


「モニカの生活費を使ってか?」


「……っ」


 クラリッサは言葉を失った。


「ドレスも宝石も、伯爵家の財産だ」


 ダンテの声は冷静だった。


「持ち出すことは許さない」


「そんな……!」


「アリシアの物も同じだ」


「旦那様!」


「必要な私物だけを持っていけ」


 クラリッサの目に涙が浮かぶ。


 だが、ダンテの表情は変わらなかった。


「横領した金については、フォーン子爵家へ請求する」


「……!」


「これで終わりだ」


 ダンテはそれだけ告げて、部屋を出ていった。


 その日の午後。


 屋敷の中は、慌ただしく動き始めた。


 クラリッサとアリシアの荷物が運び出される。


 これまで屋敷を埋め尽くしていた華やかなドレスや装飾品。


 その多くは伯爵家の財産だった。


 一つずつ確認され、持ち出すことを禁じられていく。


「どうして……」


 アリシアが呟く。


「私のお部屋も……?」


「今日から、ここはお前たちの家ではない」


 ダンテは静かに答えた。


 クラリッサは何も言えなかった。


 ただ、屋敷を出る直前まで、


「私は……伯爵夫人なのに……」


と繰り返していた。


 そして――。


 誰もいなくなった屋敷の中。


 ダンテは、モニカの姿を探した。


 学園から戻るまで、もう少し時間がある。


 ダンテは新しく用意する部屋を見上げた。


 大きな窓。


 柔らかな日差し。


 庭園を一望できる景色。


「……ここなら」


 モニカも、少しは笑えるだろうか。


 食事も変える。


 衣服も。


 学用品も。


 これまで与えられなかったものを、一つずつ取り戻していく。


 そして――。


 ダンテは胸元に手を当てた。


 そこには、エリンからの手紙がある。


「エリン」


 静かに呟く。


「私は、もう逃げない」


 十年前。


 妻を失った悲しみから逃げるように、すべてを人に任せた。


 その結果、娘を守ることができなかった。


 だから、今度こそ。


「モニカを守る」


 ダンテは、空を見上げた。


「君に誓う」


 その日。


 十年間閉ざされていたモニカの人生が――。


 ようやく、動き始めた。

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