リンカの期待
奥様がいなくなって、三ヶ月。
セルディオは日に日にやつれていった。
奥様を案じるあまり、食事がほとんど喉を通らないらしい。頬はげっそりとこけ、目だけが異様なほどぎらついている。
夜も眠れていないのだろう。目の下には濃い隈が刻まれ、せっかくの美貌もすっかり影を潜めていた。
服だけは、その痩せていく身体に合わせて何度も仕立て直されているせいか、以前と変わらずきっちりと身に着けている。けれど、肝心の本人はもう昔のように背筋を伸ばして歩くこともなく、肩を落とし、猫背気味に廊下を歩いていた。
その姿は見るも無惨で──あれがアタシの好きだったセルディオだなんて、正直認めたくなかった。
奥様がいた頃の彼は、誰よりも堂々としていて、この世の誰よりも格好良かったのに。
たった一人、奥様がいなくなっただけで、ここまで落ちぶれてしまうなんて……。
もちろんアタシは、奥様がいなくなった隙にその座へ収まろうと、あの手この手でセルディオに迫った。
けれど、結果は惨敗。
セルディオは、アタシを傍に寄せることすら嫌がった。
少しでも近づこうものなら疫病神でも見るような目を向けられ、酷い時には突き飛ばされる。
「……あの時、お前なんかの相手をしなければ……」
そんな言葉を、もう何度聞かされたことか。
確かに、あの日アタシは公爵家を訪れた。でも、会うことを選んだのはセルディオだ。
今更どれだけ後悔したところで、過去は変えられやしないのに。
それならいっそ、本当に妊娠でもしてしまえば待遇が変わるんじゃないか──そんなことまで考えた。
けれど、アタシの行動は常に使用人達に監視されていて、二度目の機会なんて到底作れそうになかった。
「……あの時、本当に妊娠してたら、今頃は公爵夫人になれてたかもしれないのに……」
そっと自分のお腹を撫でる。
三ヶ月。
これだけ探しても見つからないのなら、もう見切りをつければいい。
そう思うのに、セルディオは決して諦めようとしない。
……そんなに奥様のことが好きなら、最初からあんなに冷たくしなければよかったのに。
それとも、本当は「可愛い子ほどいじめたい」なんていう、子どもみたいな感情だったのだろうか。
だとしたら──あまりにも不器用すぎる。
「何とも思ってない相手には、物語の王子様みたいに優しくできるのにね……」
それでも二人は大恋愛の末に結婚したと聞いているから、最初から奥様に冷たかったわけではないのだろう。
だとしたら──どうして突然、あんな態度になってしまったのか。
理由は分からない。
けれど、その時ふと、今の自分の状況が奥様と重なっていることに気づいた。
「あれ……? もしかしてアタシ、奥様と同じ立ち位置になってない……?」
セルディオは今、アタシを酷く冷たくあしらっている。
近づけば拒絶され、顔を合わせれば疎ましげにされる。
……それって、奥様にしていたことと同じじゃない?
だとしたら。
もしかしたら、セルディオはアタシのことを少しくらいは好きになっているのかもしれない。
今は奥様のことで頭がいっぱいで、自分の気持ちに気づいていないだけで……本当は──。
「……なーんて」
そこまで考えて、アタシは自嘲気味に笑った。
そんな都合のいい話、あるわけない。
……ない、はずなのに。
胸の奥では、小さな期待が消えてくれなかった。




