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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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小さな幸せ

「だったら、リシテアさんもしばらくは外に出ない方がいいよ。買い物は俺と先生で何とかするから、二人には医院の中で大人しくしていてもらって……」


 突然、シルが水を得た魚のように次々と言葉を紡ぎ始めた。


 あまりの勢いに、私とリシテアはただ目を瞬かせる。


「このこと、当然先生にも話したんだよね? だったら、先生もきっと協力してくれるはずだし──」

「ちょ、ちょっと待って!」


 そこで、リシテアが慌てたようにシルの言葉を遮った。


 何を言うつもりなのだろう。


 私が首を傾げていると、彼女はシルを落ち着かせるように両手を前へ出す。


「シルの申し出は、本当にありがたいわ。でも、私達はすでにここでお世話になっている身なの。これ以上ご迷惑をおかけするわけには──」

「何言ってるんだよ!」


 今度はシルが、思わずというように声を荒らげた。


「今は、ニーナさんが旦那さんに見つからないことが一番大事だろ? 俺たちに迷惑をかけたくないからって、リシテアさんが外へ出て、もし捕まりでもしたらどうするんだよ!」


 ぎゅっと拳を握りしめ、シルは真っ直ぐにリシテアを見つめる。


「そんなことになったら、ニーナさんはきっと自分を責める。心配しすぎて、今度こそ本当に倒れちゃうかもしれないんだぞ……!」

「そ、それは……」


 答えに詰まったのだろう。リシテアが困ったように私の顔を見た。


 そんな彼女の視線を受け、私は穏やかに微笑んだ。


「リシテア、あなたの気持ちは私にもよく分かるわ。私だって、先生やシルには申し訳ない気持ちでいっぱいだもの。だけど、ここは先生とシルの意見を尊重しましょう? 私のところへ来る前に、先生とお話をしてきたのよね? 先生は何と仰っていたの?」


 私のところへ来るのが遅かったことからしても、リシテアは先生にことの次第を話しているはずだ。


 その時、先生がリシテアに何を告げたのか──それを聞いてから答えを出しても遅くはないと思った。


「……先生は」


 リシテアが小さく息を吸い込み、ぎゅっと拳を握りしめる。


「奥様の身を最優先に考えるべきだと仰いました。公爵様が本気で捜しておられる以上、今は誰一人として不用意に外へ出るべきではない、と……」

「そう……」


 やはり先生も、同じ考えだったのね。


 聡明な先生が私と同じ考えでいてくださったことに、私はほっと胸を撫で下ろした。


 けれど、それならどうしてリシテアは、あのようなことを言ったのだろう。


 そう考えていると、彼女はなおも言葉を続けた。


「それから……もし私が捕まって、奥様の居場所を知られてしまったら……その時は、一生後悔することになる、とも。ですが私は……ただ、何もできない自分が情けなくて……」


 震える声に、思わず胸が締めつけられる。


「奥様をお守りすると決めたのに、こうして先生やシルに頼りきりで……。せめて買い物くらいは私がしなければと思ったのです」

「リシテア……」


 私はそっと彼女の手を包み込んだ。


「あなたは何もできていないなんてことないわ。むしろ、あなたがいてくれたから私はここまで来られたの」

「奥様……」

「屋敷を出る決心ができたのも、こうして今も心細くないのも、全部あなたのおかげよ。だから、これ以上自分を責めないで」

「……っ」


 ぽろり、と一粒の涙がリシテアの頬を伝う。


「私は……ただ……奥様に幸せになっていただきたいだけなのです……」

「ええ。ありがとう」


 私が微笑むと──。


「俺も!」


 そこへシルが勢いよく割って入ってきた。


 そして、私達の手の上に自分の手を重ねる。


「四人で一致団結して、ニーナさんの旦那をやっつけようぜ!」

「ふふ……」


 元気よく拳を突き上げるシルの姿が、なんとも子どもらしくて愛らしい。


 そんな彼を見て私がくすくすと笑っていると、


「……公爵様をやっつけてしまって、本当に大丈夫なのでしょうか」


 隣で、リシテアが小さく不安げに呟いた。


 どこまでも元気なシルと、心配性なリシテア。


 そして、私達を温かく見守ってくださる優しい先生。


 素敵な人達に囲まれていることが、今はただ、幸せだった。














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