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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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不穏な気配

 シルと二人、穏やかに話をしていると──ようやく扉を叩く音が響いた。


「奥様、リシテアです。中に入ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ。どうぞ」


 どこかよそよそしい口調を不思議に思いながら、私は彼女を部屋へ招き入れる。


 けれど──。


 入ってきたリシテアの表情を見て、思わず息を呑んだ。


 医院を出発した時とはまるで違う。


 その顔は強張り、ひどく緊張した面持ちをしていた。


「リシテア、どうしたの? 公爵家で、何かあったの?」


 思わずベッドの上で前屈みになって、リシテアに問う。


 すると彼女は俯いて、拳を握りしめた。


「…………」


 どうしたのだろう。


 ここまで言い淀むリシテアを見るのは珍しい。


 いつもなら帰ってくるなり、あれやこれやと屋敷での出来事を話してくれるのに……。


 先ほどシルが言っていた、“私の部屋に突撃しようとしていた”という話と、何か関係があるのだろうか。


 訳が分からず首を傾げていると、シルが遠慮がちに口を開いた。


「えっと……もし俺がいると話しにくいなら、別のところに行ってるけど……」


 そう言って、彼は静かに扉へ向かう。


 それを引き止めるべきか迷っていると、扉の前に立ったままのリシテアが、意を決したように顔を上げた。


「……いいえ、シルもここにいて。この話は、できればあなたにも聞いてもらいたいから」

「え? 俺にも?」


 シルが目を瞬かせる。


 リシテアは小さく頷くと、ゆっくりと私を見つめた。


 その瞳には、怒りとも悲しみともつかない複雑な感情が宿っている。


「奥様……私、今日……聞いてしまったんです……」

「え……何を……?」


 胸が、どくりと嫌な音を立てた。


 リシテアの青ざめた顔を見た瞬間、言いようのない不安が胸の奥を這い上がってくる。


 聞きたくない。


 けれど、聞かなければならない気もして──私は息を殺し、彼女の唇を見つめた。


「旦那様が……奥様の行方を探されている、と……」

「……っ!」


 全身から、すっと血の気が引いた。


 どうして……?


 なぜ、今になって。


 離縁届は置いてきた。結婚指輪も返した。


 私はもう、あの屋敷を出た人間なのに。


 それなのに、どうして……私を探すの?


「その理由は……?」


 震える声で尋ねると、リシテアはゆっくりと首を横に振った。


「分かりません……。ですが、旦那様は心当たりのある場所を片っ端から探しているそうです。……それだけではありません。人を雇って、街中を捜させているとも……」

「そんな……」


 思わず息を呑む。


 まるで、逃亡した罪人を追うかのように。


 それでは、院内で療養している私ならまだしも、買い物のために街へ出ているリシテアは、いつ見つかってもおかしくない。


 もし、リシテアから居場所を聞き出そうとしたら……?


 もし、もうすぐそこまで追手が来ていたら……?


 そう考えた瞬間、背筋を冷たいものが這い上がり、私は無意識に毛布を握りしめていた。









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