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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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シルの優しさ(ニーナ視点)

 まさか、セルディオ様とリンカ様の間に、また何かあったの……?


 離縁届を置いて屋敷を出た。


 もう私には関係のないことなのだと、自分に言い聞かせてきた。


 セルディオ様のことは、もう考えないようにしようと決めたはずだった。


 それなのに──やっぱり気になってしまう。


 どれだけ忘れようとしても忘れられない。


 どれだけ記憶の奥へ押し込めようとしても、優しく微笑む彼の姿が消えてくれない。


 私の心は、今もなおセルディオ様に囚われたままだった。


「ニーナさん……」


 気遣わしげなシルの声に、私ははっと我に返る。


 慌てて口元に笑みを作り、何でもないふうを装った。


「どうしたの? シル。私なら大丈夫よ」


 けれど、毎日のように私の顔を見ているからだろう。


 シルはその言葉を信じてはくれなかった。


「ニーナさんさ、聞かれてもないのに自分から『大丈夫』って言う人って、大抵大丈夫じゃないんだよ」

「……っ」

「まだ忘れられないんでしょ? 旦那さんのこと」


 優しく、それでいてどこか寂しそうな声だった。


 私は何も答えられない。


 そんな私を見て、シルは小さく息を吐く。


「俺、分かるよ」


 そして、少しだけ頬を赤く染めながら言った。


「……だって俺、ニーナさんのことが好きだから」

「シル……」


 思いもよらない告白だった。


 まさかシルが、そんなふうに私を想っていてくれたなんて。


 胸がじんわりと温かくなる。


 けれど同時に、申し訳なさも込み上げてきた。


「ありがとう、シル。でも、ごめんなさい。私は──」

「うん。分かってる」


 私の言葉を遮るように、シルは小さく笑った。


「別に返事が欲しくて言ったわけじゃないんだ。ニーナさんを困らせたいわけでもない」


 そう言って、彼は真っ直ぐに私を見上げる。


「ただ俺は……もう前の旦那さんのことで、ニーナさんに辛い思いをしてほしくないだけなんだ」


 その真っ直ぐな優しさに、鼻の奥がつんとする。


 こんな小さな子にまで心配をかけてしまっているなんて。


 そう思うと、情けなくて、少しだけ泣きたくなった。


「俺の気持ちはさ、純粋な子供の恋心として受け取ってくれれば、それでいいから」


 さっきは子供扱いするなと言っていたくせに、こんな時だけ子供であることを主張してくる。


「大人なのか子供なのか、どっちなの……?」


 思わず苦笑しながら尋ねると、シルは照れくさそうに唇を尖らせた。


「そんなの、都合がいい時は大人で、都合が悪くなったら子供に戻るに決まってるだろ?」

「なにそれ。ずるいじゃない」

「ずるくないよ! 俺みたいな微妙な年頃のやつにだけ許された特権なんだから!」


 必死になって反論するシルの姿が、なんだかおかしくて。


 私は胸の痛みさえ忘れ、しばらくの間、声を上げて笑っていたのだった。











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