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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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セルディオの悟り

 リンカの言葉に、頭の中が真っ白になった。


 ニーナが毎日何を考えていたのか。どんな気持ちで過ごしていたのか。


 言われてみれば、僕は一度だって真剣に考えたことがなかった。


 ただひたすら、彼女の関心を引くことだけに必死だった。


 嫉妬してほしい。怒ってほしい。


 少しでもいいから、自分を見てほしかった。


 そのためなら、どんな手段でも構わないと思っていた。


「……ニーナを追い詰めたのは、僕だっていうのか?」


 掠れた声が零れる。


 まさか、そんなはずはない。


 ニーナはリンカの嘘に耐えきれず、屋敷を出ていったのだ。


 僕が他の女と子供を作ったと思い、その悲しみに耐えきれなくなって──。


「悲しみ……」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥がずきりと痛んだ。


「……そうか」


 今になって、ようやく分かった気がした。


 リンカと並んでいる僕を見ていた時の、ニーナのあの表情。


 あれは怒りでも、憎しみでもなかった。


 ましてや、無関心などではない。


 ──悲しかったのだ。


 愛する夫が、自分以外の女に寄り添っている。


 その光景を見せつけられながら、それでも何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。


 あの笑顔は、諦めだったのか。


 それとも、壊れてしまいそうな心を必死に隠していただけだったのか。


「僕は……何をしていた……?」


 彼女を振り向かせたい一心で取った行動が、知らないうちに彼女の心を傷つけ、追い詰めていた。


 愛していると言いながら。


 守りたいと願いながら。


 僕自身の手で、ニーナを一番苦しめていたのだ。


「なのに僕は……」


 体調の優れない彼女に、無理やり身体を重ねようとした。


 そして、それを受け入れたニーナを一人残し、ほんの半刻ほどだからとリンカのもとへ向かってしまった。


 その結果、彼女の策略に嵌まり──望まぬ形とはいえ、関係を持ってしまった。


 ……本意ではなかった。


 だが、そんな言い訳に何の意味がある。


 事実として、僕はニーナを裏切ったのだ。


 それなのに。


 自分は不貞を犯しておきながら、ニーナが僕を拒む理由も考えず、彼女の浮気を疑った。


 他の男がいるのではないかと決めつけ、責め立てた。


 彼女がどれほど傷ついたのかも知らずに。


「……何をやっているんだ、僕は」


 震える声が、静かな部屋に落ちる。


 愛していると口では言いながら、その実、僕は何一つ彼女を信じていなかった。


 ニーナの苦しみに気づこうともせず、自分の寂しさと嫉妬ばかりを押し付けていた。


 彼女が僕を拒んでいたのは、裏切っていたからではない。


 ただ、苦しかったのだ。


 そんな状況で僕とリンカの間に子供ができたと言われれば──逃げ出したくなっても無理はないだろう。


 ニーナだって、僕との子供を望んでいたはずだ。


 体調を崩し、子作りができなくなる前までは、「早く子供が欲しい」と笑顔で言っていたのだから。


「そんな……ニーナを……」


 守るどころか、追い詰めていた。


 彼女の心を壊し、逃げ出したくなるほど傷つけたのは、ほかの誰でもない。


 ──この僕だった。













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