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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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リンカの誤算 3

「さあ、言え。お前は一体ニーナに何を言ったんだ」


 セルディオに詰め寄られ、アタシは力なく首を横に振った。


 言えない。言えるはずがなかった。本当のことなど。


 もし口にしてしまえば、どうなるか分からない。最悪、この屋敷から追い出されるかもしれない──そんな考えが頭をよぎる。


 だからアタシは、必死に言葉を濁した。


「と、特に……大したことは……」

「では、なぜニーナは姿を消した? お前を睨んでいたのはなぜだ? それほどまでに酷いことを言ったからではないのか!?」


 焦燥を隠しきれないセルディオが、アタシの顎を掴む指に力を込める。


 痛い。


 けれど、それ以上に怖かった。


 今まで見たこともない顔をしている。


 正直、彼がここまで取り乱すとは思ってもいなかった。


 奥様を愛していることは知っている。だから彼女がいなくなれば、きっと悲しみに打ちひしがれるだろうと、そう思っていた。


 そして、その傷ついた心に寄り添えばいい。


 優しく慰めて、支えて……そうすれば今度こそ、自分だけを見てくれる。


 アタシは、本気でそう信じていた。


 ……なのに。


 奥様を失ったかもしれない今、セルディオが抱いたのは悲しみではなかった。


 燃え上がるような怒り。


 それも、奥様を傷つけたかもしれないアタシへ向けられた怒りだった。


 その事実に、胸の奥がじわりと冷えていく。


 ──ああ。


 この人は、本当に。


 本当に、奥様のことを愛しているのだ。


 今さらになって、それを思い知らされた。


 けれど今さら、どうしろと言うのだろう。


 アタシが奥様に何を言ったのかを知ったところで、もう遅い。


 奥様は、もういないのだから。


 そう思った瞬間、不意に笑いが込み上げてきた。


「……ふふっ」

「何がおかしい?」


 セルディオが眉をひそめる。


 その顔を見ていると、可笑しくて、惨めで、どうしようもなく腹が立った。


 今さらそんな顔をして、何になるというのだろう。


 だからアタシは、顎を掴まれる痛みに耐えながら、挑むように口を開いた。


「今さらそれを知ったところで、どうするつもり?」

「……何?」

「言っておくけど、今回のことはただのきっかけよ」


 一度言葉を切り、セルディオを真っ直ぐ見据える。


「本当の意味で奥様を追い詰めて、この家からいなくなるほど傷つけたのは……あなたでしょう?」


 その瞬間。


 セルディオの動きが、ぴたりと止まった。


 まるで、息の仕方すら忘れてしまったかのように。


 その隙を逃さず、アタシは彼の手を乱暴に振り払った。


「っ……」


 強く掴まれていた顎が、じんじんと熱を持つ。


 けれど、そんなことを気にしている余裕はなかった。


 今さら、全部アタシのせいにしないで。


 今さら、自分だけが被害者みたいな顔をしないで。


 奥様を傷つけてきたのは、ずっとあなたじゃない。


 冷たい言葉を浴びせて、無視して、他の女を側に置いて……それでも何も気づかなかったのは、あなたでしょう。


「奥様がどんな気持ちで毎日過ごしていたか、あなたは一度でも考えたことがあった?」

「……っ」

「何をされても笑って、何を言われても耐えて……そんな奥様が、どうして突然いなくなったと思うの?」


 震える声で言いながら、アタシは初めて理解していた。


 自分が奥様にしたことも許されない。


 けれど、それ以上に──この男もまた、彼女を追い詰めていたのだと。


「奥様をここまで追い込んだのは……あなたよ、セルディオ」










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