表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/108

リンカの誤算 2

 ノックもせず、アタシは勢いよく扉を開け放ち、部屋の中へと飛び込んだ。


「セルディオ!」


 せっかく手に入れた今の居場所を、奥様に奪われたくなかった。


 今更、セルディオと奥様が仲直りするなんて、絶対に嫌だった。


 けれど──。


 がらんとした部屋の中央で、膝をついているセルディオの姿を目にした瞬間、アタシは息を呑んだ。


「セルディオ……? 何をしているの? 奥様はどこ?」


 たとえ出掛けていたとしても、ベッドの上はあまりにも綺麗すぎる。


 まるで少し席を外したのではなく、最初から誰もいなかったかのように。


 ──いや、違う。


 これは、出掛けたというより……出ていったのだ。


「まさか……奥様、いなくなっちゃったの?」


 込み上げる喜びを抑えきれず、自然と口元が緩む。


 私の吐いた嘘を真に受けて、本当に出て行ってしまうなんて。


「セルディオ、大丈夫よ。あなたにはアタシが──」


 ついている。


 そう言おうとして、彼へと歩み寄った、その時だった。


「僕に触るな!」


 怒声とともに、セルディオが凄まじい勢いでアタシの腕を振り払う。


「きゃっ……!」


 あまりの力強さに、アタシは尻もちをつき、そのまま床へと倒れ込んだ。


「な……何するのよ! 酷いじゃない!」


 怒りに任せて声を荒げると、セルディオが冷え切った瞳でアタシを見下ろした。


 その視線に、背筋がぞくりと震える。


 なに……? どうしたっていうの……?


 今まで見たこともない、底知れない恐ろしさがそこにはあった。


 思わず息を呑み、口を閉ざしてしまう。


 すると、セルディオがゆらりと立ち上がった。


 そして、一歩、また一歩と、ゆっくりアタシへ近づいてくる。


「な、なによ……。言いたいことがあるなら──ひゃっ!」


 目の前に勢いよくしゃがみ込まれ、思わず目を閉じた。


 次の瞬間、強い力で顎を掴まれる。


「痛っ……」


 ぐい、と顔を上向かされ、否応なくセルディオの顔が視界いっぱいに映り込んだ。


 恐ろしい。


 怖い。


 それなのに──やはり彼は、誰よりも美しかった。


 整った顔立ちに、吸い込まれそうな紫の瞳。


 こんなにも近くで見つめられるのは、愛人としてこの屋敷へ迎えられる前以来のことだった。


 その懐かしさに、ほんの一瞬だけ恐怖を忘れ、彼の顔に見入ってしまう。


 けれど。


「……お前、ニーナに何を言った?」


 耳元で響いたのは、凍えるほど低く、怒りを押し殺した声だった。


「何って……アタシは別に……」


 けれど、言葉はそこで途切れてしまう。


 本当のことなど、口が裂けても言えるはずがなかった。


 セルディオとアタシの間に子どもができた──そんな大嘘を、勝手にでっち上げたなんて。


 きっとセルディオは、そこまで望んではいなかった。


 それどころか、その嘘が原因で奥様が屋敷を出ていったのだと知れば……。


 ──許してもらえるはずがない。


 そう思った瞬間、全身から血の気が引いた。


 何か言わなければ。


 上手い言い訳をしなければ。


 そう焦れば焦るほど、頭の中は真っ白になり、何一つ言葉が浮かんでこない。


 喉がひくりと震える。


 額にはじわりと冷や汗が滲み、指先まで冷たくなっていく。


 逃げ場なんて、もうどこにもなかった。


 ──アタシは、完全に追い詰められていた。


 


 


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
セルディオの被害者面が笑える。 リンカとセルディオは浅慮な馬鹿同士でとてもお似合いだし、実は運命の相手なのではw そしてやっぱりセルディオ気持ち悪いw 顔が良い設定だから余計に気持ち悪さがマシマシ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ