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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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リンカの誤算

 いつも通り、決められた公爵家のお茶の時間──。


 アタシは一分一秒違わずサロンへ足を運び、セルディオが来るのを待っていた。


 普段の彼は、多少前後することはあっても、約束の時間を大きく違えるような人じゃない。貴族らしく時間には人一倍うるさい男だ。


 それなのに今日に限って、待てど暮らせど姿を現さない。


「どうしたのかしら……?」


 公爵家では主人が席に着くまで、お茶もお菓子も手をつけてはいけない決まりになっている。


 つまり、セルディオが来ない限り、目の前に並ぶ焼き菓子もケーキも全部お預け。


 こんなに美味しそうなお菓子が並んでいるのに、眺めることしかできないなんて拷問じゃない。


 こっそり一つくらい摘まんでもバレないでしょ──そう思っても、すぐ後ろにはメイドが控えていて、とてもじゃないけど手を伸ばせない。


「もう……セルディオったら、一体何してるわけ?」


 空腹と退屈が限界に達し、アタシは勢いよく椅子から立ち上がった。


「待ってたって埒が明かないし、探しに行けばいいわよね」


 そう独り言を零すと、止める者もいないことをいいことに、アタシはサロンを飛び出した。


「えーっと、セルディオがいるとしたら……」


 まず思い浮かんだのは執務室だった。


 あの人は仕事人間だから、時間を忘れて書類と睨めっこしている可能性は十分ある。


 そう思って扉をノックし、中を覗いてみたけれど──そこにセルディオの姿はなかった。


「なーんだ。やっぱり違ったか」


 小さく肩を落とし、廊下へ戻る。


 となると、次は私室だろうか。


 セルディオが普段いる場所なんて、執務室か私室くらいしか思いつかない。


 もしそこにもいなかったら……もうアタシにはお手上げだ。


「ニーナさんの部屋……って可能性もなくはないけど」


 ぽつりと呟いて、自分で首を振る。


「いや、それはないわよね」


 この前、自分から離縁を突きつけたばかりじゃない。


 そんな相手の部屋へ、わざわざ会いに行くなんて考えにくい。


 それに、セルディオが今さらニーナさんを気に掛ける理由なんてない……はず。


「ま、どこにもいなかったら使用人に聞けばいっか」


 深く考えるのをやめると、アタシは軽い足取りで私室へ向かった。





⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎





 セルディオの私室に着くと、軽く扉を叩く。


「セルディオ? いる?」


 返事はない。


 もう一度ノックしてみても、部屋の中は静まり返ったままだ。


「……留守?」


 恐る恐る扉を開けてみる。


 綺麗に整えられた室内には、人の気配すらなかった。


「えぇ……。執務室にもいなくて、私室にもいないなんて」


 さすがにお手上げだ。


 廊下へ戻ったところで、ちょうど通り掛かった年配の執事が目に入る。


「あ、ちょうど良かった」


 アタシは軽く手を振って呼び止めた。


「ねぇ、セルディオを見なかった?」


 執事は一礼すると、落ち着いた口調で答える。


「旦那様でしたら、本日は奥様のお部屋へ向かわれております」

「……え?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「奥様って……ニーナさんの?」

「はい」


 何でもないことのように頷く執事。


 だけどアタシの胸は、どくりと大きく鳴った。


「そんな……」


 だって、この前あんなにはっきり離縁を言い渡したばかりなのに。


 もう二度とニーナさんの部屋なんて訪れないと思ってた。


「どうして……?」


 嫌な予感が胸の奥でじわりと膨らんでいく。


 考えるより先に、アタシの足はニーナさんの部屋へ向かって駆け出していた。










 



  

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