セルディオの期待
その日の僕は、少し体調を崩していた。
けれど、不思議と気分は悪くなかった。
むしろ胸の内は、これまでにないほど晴れやかだった。
というのも、結婚してから今日まで、ニーナが毎日欠かさず僕のために薬湯を作ってくれていたことを、つい先ほど知ったからだ。
先日、僕はニーナに離縁を切り出し、反省を促すつもりで彼女を突き放した。
それ以来、彼女は部屋から出てこなくなり、薬湯も僕のもとへ届かなくなった。
最初は特に気にも留めていなかった。
だが日を追うごとに疲れが抜けなくなり、頭は重く、身体のだるさまで感じるようになってきた。
さすがにおかしいと思い厨房へ尋ねると、そこで初めて真実を知ったのだ。
毎朝、ニーナが僕のその日の体調を見極め、それに合わせて薬湯を煎じてくれていたのだと。
今はその薬湯が届かなくなったからこそ、抑えられていた身体の不調が一気に表へ出てきたのだろう、と。
胸が締めつけられた。
あれほど冷たく接していた僕のために、ニーナは何一つ文句も言わず、毎日そんなことを続けてくれていたのか。
何も知らなかった僕は、先日ニーナへ浴びせた言葉を心の底から悔いた。
彼女は、ちゃんと行動で想いを伝えてくれていた。
それなのに僕は、「愛している」と口にしてくれなかったという、それだけの理由で彼女を責め立ててしまった。
もし、この事実をもっと早く知っていたなら──。
僕は決して、あんな酷い言葉を彼女へぶつけたりはしなかったのに。
今日こそは謝ろう。
先日ぶつけてしまった酷い言葉を謝って、離縁などという話は、感情に任せて口走ってしまっただけなのだと正直に伝えよう。
それからリンカのことも話さなければ。
君の気を引きたくて、わざと親しくしているように振る舞っていただけだったと。
身体の関係など何もないのだと──嘘をつこう。
罪悪感はあった。
けれど今は、ニーナを安心させることの方が大切だと思った。
そうすれば、きっと彼女は僕を信じてくれる。
もう二度と不安になどさせない。
これからはニーナだけを大切にする。
他の女に目を向けることもしない。
リンカは……そうだ。ニーナの目に触れないよう、別棟で暮らさせればいい。
それで全て丸く収まるはずだ。
僕達は、もう一度夫婦として歩き始められる。
一からやり直せばいい。
僕達なら、まだ間に合う。
だって僕もニーナも、誰より深く、お互いを愛し合っているのだから。
僕は軽やかな足取りで、ニーナの部屋へ向かった。
今日は当然、リンカは連れてきていない。
ニーナとやり直そうとしているのに、愛人を伴って彼女のもとを訪れるなど、言語道断だからだ。
あの日、離縁というあまりにも残酷な言葉を突きつけられてから、ニーナはずっと部屋へ閉じこもっている。
きっと、あの一言がそれほどまでに彼女を傷つけてしまったのだろう。
でも、もう心配はいらない。
僕がちゃんと謝る。
誤解も解いて、もう二度と不安になんてさせない。
だから大丈夫。
これからは、あの日の出来事が夢だったのではないかと思えるくらい、また君を幸せにしてあげるからね。




