リンカの不満
全然、全く、思い通りにならないわ……。
セルディオに与えられた部屋のベッドへ寝転がり、アタシは大きくため息を吐いた。
奥様に嘘を吹き込んだところまでは完璧だった。
あの時の、今にも壊れてしまいそうなくらい傷ついた顔。
思い出すだけで笑みがこぼれる。
我ながら、あれは最高の一手だった。
なのに、その後がまるで上手くいかない。
あれだけ毎日のように奥様の部屋へ通っていたのに、あの日を境に一歩も中へ入れてもらえなくなってしまった。
原因は、リシテア。
「お子を身篭られた大切なお身体である貴方様に、奥様のご病気が伝染っては大変ですので」
そんなもっともらしいことを言って、毎回アタシを門前払い。
……どうせ建前でしょ。
本当は、アタシを奥様に近づけたくないだけ。
あの女、絶対にアタシを警戒してる。
しかも最近は、奥様のところへ頻繁に出入りしているクソガキまでいる。
あいつも本当に生意気。
年上のアタシに対して、敬うどころか偉そうな態度しか取らない。
「ニーナさんに近づくな! あんたの性格の悪さが伝染ったら大変だからな」
なんて言って。
何様のつもりよ。
公爵家の権力で今すぐ捻り潰してやりたいくらい、腹の立つガキだった。
だけど、アタシはただの居候みたいなもの。
セルディオの責任感だけで屋敷に置いてもらっている、契約上の愛人でしかない。
だから悔しくても、あいつらに手を出すことはできない。
もし自由にできる立場だったら、あのクソガキなんて今すぐ屋敷から叩き出してやるのに。
何もできない自分が、たまらなく腹立たしかった。
……けれど。
そんなことは、まだ序の口。
一番アタシの思い通りにならないのは、セルディオだった。
男なんて、一度でも関係を持てば情が移るもの。
そのままズルズルと離れられなくなる──そう聞いていた。
なのに、あの人は違う。
むしろアタシに触れてしまった自分を嫌悪しているみたいに、露骨に顔をしかめて距離を取る。
泣きながら縋りつけば、面倒くさそうに慰めてはくれる。
けれど、それだけ。
それ以上、踏み込ませてはくれない。
距離を縮めようとすれば拒まれ、強引に近づけば突き放される。
まるでアタシが疫病神か何かみたいな扱い。
あの夜のことだって、覚えているはずなのに。
都合よく忘れたふりなんかして、本当に腹が立つ。
……でも。
アタシは諦めない。
一度手に入れたものを、簡単に手放す気なんてない。
セルディオがアタシだけを見るようになるまで。
セルディオの心が完全にアタシへ傾く、その日まで──何度でも食らいついてやる。




