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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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自由

 セルディオ様の言葉は鋭い刃となって私の胸を深く抉り、その痛みに耐えきれず、私は思わず身体を丸めた。


「奥様……大丈夫ですか?」


 耳元で、リシテアの心配そうな声が聞こえる。


 大丈夫よ──そう答えたいのに、胸を締めつけるような痛みが強く、すぐには声が出なかった。


 私はゆっくりと顔を横へ向け、せめて安心させようと力なく微笑む。


 けれどリシテアは、その笑みに悲しげな表情を返すだけだった。


「なんだよ、あいつ! あれがニーナさんの旦那なわけ!? あんな最低なやつ、俺、初めて見た!」


 シルは怒りが収まらない様子で、悔しそうに地団駄を踏む。


「なんであんなのが旦那なんだよ!」「あんなやつ、人間じゃない!」「人の皮をかぶった悪魔だ!」


 次から次へと悪態をつくその姿は真剣そのものなのに、どこか子どもらしくて。


 思わず、胸の奥が少しだけ温かくなった。


 張り詰めていた心がゆっくりとほどけていき、それに合わせるように胸の痛みも少しずつ和らいでいく。


 ……本当に不思議。


 どんな薬よりも、シルがこうして私のために怒ってくれて、笑わせようとしてくれることの方が、ずっと私の心を癒してくれるのだから。


 もっとも、シル本人に私を笑わせようというつもりはないのだろう。それでも今の私にとって、彼の存在は何よりの救いだった。


「ねぇ、ニーナさん。やっぱり先生のところに行こうよ。ニーナさんみたいに症状の酷い患者さんは、病院に引き取って面倒を見るのが先生のやり方なんだ。こんな心臓に悪い場所にいるより、絶対先生のところに行った方がいいって」


 真っ直ぐな瞳でそう訴えるシル。


 その言葉に、リシテアははっとしたように彼へ視線を向けると、諭すように静かに口を開いた。


「でもね、シル。奥様は──」


 公爵夫人。


 その立場を捨てることは、公爵家の名に泥を塗ることになる。


 だからリシテアは、私が屋敷を離れられない理由を伝えようとしたのだろう。


 けれど──。


 セルディオ様は、離縁すると仰った。


 もう私は、この屋敷にいる理由を失ってしまったのではないだろうか。


 それなら、いっそのこと……。


「私……行こうかしら」


 ぽつりと零れたその一言に、部屋の空気が静まり返る。


 途端に、リシテアとシルが弾かれたように私を見つめた。


「お、奥様……今、なんと仰いましたか?」

「ニーナさん、今、もしかして……」


 二人とも目を大きく見開き、信じられないものを見るような表情を浮かべている。


 そんな二人を見ていると、少しだけ笑いたくなった。


 私は小さく微笑み、ゆっくりと頷く。


「この家を出て……シルの先生のところに身を寄せようと思うの」


 そう口にした瞬間、不思議なほど胸が軽くなった。


 つい先ほどまで、胸を締めつけていた苦しさが少しだけ薄らいでいく。


 きっと私は、ずっとこの言葉を口にしたかったのだ。


 公爵夫人という立場に縛られ、自分の気持ちに蓋をして。


 それでも今日、セルディオ様は自ら離縁という言葉を口にした。


 だったらもう──私がこの屋敷に縛られ続ける理由は、どこにもない。










 

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