セルディオの勘違い 2
カツカツと靴音を響かせ、僕は足早にニーナの部屋へ向かっていた。
「セルディオ……待ってぇ」
後ろから、小走りで追いかけてくるリンカの苦しげな声が聞こえる。
だが、今の僕にはそんなことを気にしている余裕などない。
先ほどリンカが知らせてくれたのは──ニーナが激しく嫉妬したという報告だった。
何をしても反応を見せなかったニーナに業を煮やしたリンカが、思い切って大きな嘘をついたらしい。
その途端、ニーナはリンカを射殺さんばかりの鋭い眼差しで睨みつけたのだという。
ようやくだ。
ようやくニーナが、嫉妬を露わにしてくれた。
あのニーナが感情を抑えきれなくなるほど、僕を失うことを恐れてくれた。
その瞬間をこの目で見られなかったのは残念だが、それでも十分だった。
これでようやく、意地を張り続けていた彼女も素直になってくれるはずだ。
きっと今頃は、泣きながら謝る言葉を考えているに違いない。
そんな期待に胸を弾ませながら、僕はニーナの部屋の扉を軽くノックした。
「……どうぞ」
返ってきた声は、ひどく弱々しかった。
リンカの嘘に傷つき、一人で泣いていたのかもしれない。
ならば、もう十分だ。
これ以上意地を張る必要なんてない。
僕は緩みそうになる口元を必死に引き締めながら、ゆっくりと扉を開けた。
「ニーナ」
彼女は、部屋を訪ねてきたのが僕だとは思っていなかったのだろう。
僕の姿を認めた瞬間、その瞳が大きく見開かれた。
「セルディオ様……。ご用件はなんでしょうか」
どこか他人行儀な口調が引っかかる。
だが、それも嫉妬のあまり意地を張っているだけなのかもしれない。
ならば今日くらいは許してやろう。
何せ今の僕は、ここ最近で一番機嫌がいいのだから。
「セルディオ……ようやく、追いついた……」
その時、遅れてリンカが部屋へと入ってきた。
その姿を見た途端、ニーナの表情が目に見えて強張る。
いいぞ、リンカ。
一体どんな話を吹き込んだのかは知らないが、ニーナを嫉妬させることには成功したようだ。
だったら後で、褒美の一つでも与えてやらなくては。
そんなことを考えていると、ニーナは先ほどと寸分違わぬ口調で繰り返した。
「セルディオ様、リンカ様。ご用件はなんでしょうか」
……せっかちだな。
いや、それとも──ああ、そういうことか。
僕とリンカが一緒にいるのが気に入らないんだな。
だから早く用件を済ませて帰ってほしい、と。
ならば、その拗ねた態度ごと受け止めてやろう。
「ニーナ。僕に何か言いたいことはないか?」
「え……?」
ニーナの眉がわずかに寄る。
まるで、本当に何を言われているのか分からない、とでも言いたげな表情だった。
おそらく、急に僕が歩み寄ったものだから戸惑っているのだろう。
仕方がない。
もう少し分かりやすく言ってやるか。
「ニーナ。今なら君のこれまでの行いを許してやってもいいと思っている。だから、もう意地を張るのはやめて、素直になってほしい。今、君が胸の内に抱えている気持ちを、そのまま僕にぶつけて──」
「出て行け!」
鋭い怒声が響き渡り、僕の言葉は最後まで紡がれることなく断ち切られた。




