セルディオの勘違い
夕方の執務室で、僕は領地の両親から届いた手紙をぐしゃりと握り潰した。
「毎度毎度、『後継はまだか』と馬鹿の一つ覚えみたいに言ってきやがって……」
どんな内容の手紙でも、最後は決まってその一文で締めくくられている。
早く孫の顔が見たい気持ちは分かるが、こちらは今、それどころではないのだ。
「ニーナとの冷戦状態も、もう半年か……」
最初は、すぐに泣いて謝ってくると思っていた。
だが、彼女は僕が思っていた以上に頑固だった。
わざと二人きりになる機会を作っても、謝罪どころか話しかけてくる気配すらない。
僕も僕で、自分から「さよなら」などと言ってしまった手前、今さら何事もなかったように話しかけることなどできなかった。
そんな時、リンカがこんなことを言い出したのだ。
『奥様にもっと嫉妬させれば、セルディオを取られたくなくて慌てて謝ってくるかも』
なるほど、と妙に納得してしまった僕は、それ以来、今まで以上にリンカを大切にしているように振る舞うことにした。
おかげでニーナは確かに傷ついたような顔をしている。
つまり、多少の効果は出ているのだろう。
だが、思っていたほどではない。
泣きながら僕に縋りついてきてもおかしくないはずなのに、彼女はただ静かに傷つくだけで、一向に距離を縮めようとはしてこない。
「何か……決定打が足りないのか?」
腕を組み、真剣に考え込む。
「いっそ、ニーナの前でリンカとキスをするか?」
……いや、それは嫌だ。
そもそも人前でそんな真似をする趣味はないし、ニーナ以外とキスなんてしたくはない。
「じゃあ、わざと閨の話をする?」
却下だ。
あまりにも品がない。
「となると……」
顎に手を当て、さらに思案を巡らせる。
「ニーナの目の前で、リンカを情熱的に抱きしめる……とか?」
その考えが頭に浮かんだ瞬間──。
「……これだ!」
まるで暗闇に一筋の光が差し込んだかのように、僕の脳裏へ閃きが走った。
これだ。
これしかない。
このくらいなら僕にとっても許容範囲だし、それを目にしたニーナは、きっと嫉妬で居ても立ってもいられなくなるはずだ。
「……よし」
そうと決まれば、あとは作戦を練るだけだ。
実行する場所はどこにするか。
タイミングは。
ニーナが必ず目にする状況をどう作るか。
頭の中で段取りを組み立てながら、僕は机の上の紙を引き寄せ、作戦を書き出そうとペンを取る。
──その時だった。
バンッ!
執務室の扉が勢いよく開き、リンカが今にも泣き出しそうな顔で飛び込んできたのは。
「セルディオ、聞いて! 奥様が……!」
「なんだ!? ニーナがどうした!」
考えるよりも先に、椅子を蹴るように立ち上がる。
心臓が嫌な音を立てて脈打ち、全身を冷たい不安が駆け抜けた。
ニーナに何かあったのか。
まさか、倒れたのでは──。
次々と最悪の想像が頭をよぎる。
しかし、リンカの口から告げられたのは。
僕の予想を、根底から覆す言葉だった。




