表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/107

溢れる涙

「違うよ」


 静かな声だった。


 けれど、その一言には強い意志が込められていた。


 そちらを見ると、シルが真っ直ぐ私を見つめている。


「それは仕方ないことなんかじゃない」

「シル……」

「子供ができないことと、人を裏切ることは全然別だろ」


 迷いのない言葉だった。


 それだけに、その言葉は私の胸にストンと落ちた。


「ニーナさんは病気になって、それでも旦那さんのことを考えて、毎日ハーブ茶まで用意して、ずっと一人で苦しんできたんだ。なのに旦那さんは、その気持ちを知ろうともしなかった」


 シルは悔しそうに唇を噛み締める。


「俺はまだ子供だから、貴族のことなんてよく分からない。でも、人として大事なことくらいは分かる」


 一歩、私に近づく。


「誰かを傷つけてまで後継を作ることが正しいなんて、そんなの絶対におかしい」

「……っ」


 その言葉は、まるで固く閉ざしていた心の扉を叩くようだった。


 私は必死に「仕方ない」と思い込もうとしていた。


 そうしなければ、自分があまりにも惨めで、あまりにも報われなさすぎるから。


 けれど、シルはそんな私の諦めを認めてくれなかった。


「だから、もう自分を責めないでよ」


 その一言で、胸の奥に押し込めていたものが音を立てて揺らぎ始めた。


「あ……」


 温かいものが頬を伝う感覚に、そっと手を添える。


 気づけば、涙が頬を伝っていた。


「私……私は……」

「奥様……!」


 駆け寄ってきたリシテアが、ぎゅっと私を抱きしめてくれる。


「泣いてください。お好きなだけ。このリシテアが、ずっとお傍におりますから」

「俺もいるよ!」


 私とリシテアの間に割って入るように潜り込んできたシルも、小さな腕で精一杯私を抱きしめてくれた。


 二人の温もりに包まれた、その瞬間だった。


 胸の奥に押し込めていた悲しみが、堰を切ったように溢れ出す。


「うっ……うぅっ……!」


 涙が次から次へと零れ落ちる。


 止めようと思っても止まらない。


 苦しくて、悲しくて、悔しくて。


 今まで一人で抱え込んできた想いが、嗚咽となって喉から溢れ出た。


「私だって、赤ちゃんが欲しかったのに! セルディオ様の子が……ずっとずっと欲しかったのに! なんで……なんでリンカ様が……」


 指先が白くなるほど、シーツを握りしめる。


 信じたかった。


 たとえリンカ様と閨を共にしていても、セルディオ様が本当に愛しているのは私なのだと。


 リンカ様との関係は、後継を残すために必要なことなのだと。


 だからいつか、私にも笑いかけてくれる日が来る。


 いつかまた、以前のように優しく名前を呼んでくださる。


 そんな淡い希望に、必死ですがり続けていた。


「でも、本当は……」


 気づいていた。


 それがただの願望でしかないことくらい。


 セルディオ様の視線が向く先は、もう私ではないことも。


 私を見つめる瞳に、かつての温もりは残っていないことも。


 全部、分かっていた。


 ただ、それを認めてしまえば、私の心は壊れてしまう気がして。


 だから知らないふりをしていただけ。


「それでも私は……」


 震える唇から、か細い声が零れる。


「……愛して、いたのに……」


 その一言ともに、またも涙が溢れ出した。


 もう、止めることはできなかった。



 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ