セルディオの想い
ニーナを放っておく事はできない──。
悪びれもせず言うと、ニーナは一瞬ポカン──とした顔になり、次いで、真っ赤になって俯いた。
たとえ一瞬であろうとも、淑女らしくない顔を晒してしまったことが恥ずかしいのだろう。僕としては、そんな彼女の表情こそが見てみたいものなのだが。
ニーナは、子爵家の令嬢にしては貴族教育が行き届いていて、そこらの高位貴族の令嬢達にも決して引けを取らない美しい所作をしている。顔だって美人とまでは言えないものの可愛らしいし、光を反射して煌めく白金の髪と、長いまつ毛の間から伏し目がちに覗く青い瞳は青空のように美しい。身体が弱いらしく全体的にほっそりとしているが、出るところは出て……ゴホン、か弱そうな感じがまた、庇護欲をそそる。
そんな彼女に僕が目をつけ──興味を抱いたのは、入学式でのことだった。
壇上で新入生代表の挨拶をしていた僕は、講堂にいるほぼ全ての女子生徒達が憧れや好意的な視線を自分に向けてくる中、ただ一人だけ、気弱そうに視線を伏せていた彼女に興味を惹かれた。
他の令嬢達とは少し違う、珍しい白金色の髪。こちらを全く見ようともしない、伏せた彼女の瞳は何色なのだろう──と。
そんな疑問を持った僕は、その日からなんとか彼女と接点を持とうとして策を練り、なかなか良案が思い浮かばない中──彼女のハンカチが予期せず飛ばされたあの日に、ようやくその願いを叶えた。
“この機を逃したら次はない!”とばかりに死に物狂いでハンカチを掴み取った僕は、何食わぬ顔──自分の中では最高に格好良く見えるであろう顔──をして、彼女にハンカチを渡したのだ。その時本当は色々と話したかったが、あまりがっついて嫌われたり警戒心を抱かせたりしたら本末転倒だし、僕は既に彼女の素性は調べ尽くしてしまっていたから、焦る事はない──と自分に言い聞かせつつ、その場を離れた。
何も機会は今日だけじゃない。こうして少しずつ距離を詰めていけば、きっと彼女も僕のことを好意的に思ってくれるようになるだろう。僕は昔から自分の顔には自信があったし、家柄や爵位も申し分ないのだ。基本的にお姫様となることを望む夢見る令嬢であれば、なんの問題もなく自分の元に転がり落ちてくるはずだと。
しかし意外にも、彼女は一筋縄ではいかなかった。
他の令嬢達のようにコロッと態度を変える事はなく、以前より姿を見かける回数こそ若干増えたものの、依然としてこちらに近づいてくる様子がなかったからだ。
「どうしてだ……。なんでちっとも距離が縮まらないんだ?」
思いの外期待通りに事が進まず、僕は自室で頭を抱えて唸っていた。




