捻挫
「ニーナ、どうした? 大丈夫か?」
その日、足を引っ掛けられた際に足首を痛め、私が片足を引きずって歩いていると、背後からセルディオ様が心配そうに声をかけてきてくれた。
「ええ、なんとか……。少し歩きにくいですが、数日で治ると言われましたので大丈夫です」
そう言って私は微笑むも、内心でため息を吐く。
本当は、全然大丈夫なんかじゃない。
足首を捻った時はとても痛かったし、痛みに呻く私に手を差し伸べてくれる人すら一人もいなかった。そのため、衆人環視の中、私は自力で立ち上がらなければならなかったのだ。男性であるならまだしも、令嬢である自分が誰の助けもなく一人で立ち上がるなど、惨め以外の何物でもなかった。
けれどそれは、子爵家という低い身分であるにも拘らず、公爵家のセルディオ様と仲良くさせてもらっている代償のようなもので。こうなるのが嫌なら最初から彼に近づかなければ良かったし、仲良くなる前に距離を置けばこんなことにはならなかった。
そうと知りつつ彼と仲良くし続けたのは自分だ。
私はただ……純粋に彼のことが好きだったから。
彼の傍にいられるのなら友達なんていらない、学園で独りぼっちになろうとも構わないと思っていた。
ただ、他の令嬢達からの嫌がらせが、私自身が考えていたより遥かに酷かったというだけで。
自業自得──。
そう言われれば、確かにそうなんだろう。
みんなの憧れの的である男性が、王族の次に爵位の高い男性が、子爵家の私なんかと仲良くしているのだもの。もし私が他の令嬢と同じ立場だったなら、絶対許せなかったに違いない。
だからこれは、仕方のないことなんだ。そのせいで怪我を負って痛みを堪える羽目になっても、誰の助けを得られなくとも、こうなることを望んだのは、他ならぬ自分自身なのだから──。
まるで自分に言い聞かせるように、そこまで考えた時だった。
「ニーナ、悪いけど、ちっとも大丈夫そうに見えないよ。良ければ怪我が治るまでの間は、僕を杖代わりに使って欲しい」
言うが早いか、セルディオ様が私の腰を引き寄せ、もう片方の手で私の手を優しく掴んだ。
「えっ、ちょ……セルディオ様!?」
仰天する私を意に介さず彼はにこやかに微笑むと、「さ、これからどこに行くんだい?」と言って半分私の身体を持ち上げるようにしながら、ゆっくりと歩き出してしまう。
「あ、あの、セルディオ様。ここまでしていただかなくとも、私は大丈夫ですので……」
「僕から見たら、とても大丈夫そうには見えないよ。僕としてはこんな状態のニーナを放っておくなんて事はできないから……ごめんね?」




