燃える侍女
それからも私とセルディオ様の偶然は何度も重なり、気づけば私達は、二人で仲良く会話をするような間柄になっていた。
お互いのことも“セルディオ様”、“ニーナ”と名前で呼び合うようになり、そうすることを彼から提案された時には、天にも昇る心地だった。けれど、子爵家の令嬢である私が公爵家の嫡男である彼に近づくことを、良しとする令嬢なんているわけがない。
最初のうちは、冷たい視線を感じるぐらいだった。それが段々とクラス内で無視されるようになり、陰口を叩かれ、足を引っ掛けられ──。私がセルディオ様と仲良くなるのと比例するかのように、私に対する嫌がらせや虐めは酷くなっていった。
「あ~ら、ごめんあそばせ」
その日もまた、知らない令嬢に足を引っ掛けられて、私は無様に床へと倒れ込んだ。
床に身体を打ちつける寸前でなんとか手をついて事なきを得たものの、そんな私に上から降ってきたのは心配する言葉ではなく、隠す気のない嫌味。
「貴女のような卑しい女は、地べたに這いつくばっているのがお似合いよ」
「どうせなら、顔が潰れてノヴェント様に嫌われてしまえばよかったのに、残念ね」
そんな言葉と共に、幾つもの嘲笑が私の周囲を包みこむかのように至る所から浴びせかけられて。
正直、何度も挫けそうになった。
どうして子爵家の生まれというだけで、セルディオ様と少し仲良くなっただけで、ここまでされなければいけないのか──と。
無論、爵位や家柄だけでなく、セルディオ様は人としても素敵な方だから、彼と仲良くしている私が妬ましくて嫌がらせをしてしまう気持ちも理解できなくはない。
けれど人に嫌がらせをする前に、自分が好かれる努力をするべきではないだろうか?
なんて、爵位を理由に彼を遠くから眺めているだけだった私が言えるセリフではないことは、十分承知している。それでも私は、決して他の令嬢に嫌がらせをしようなどとは考えなかったから。
「そういった方達は、心根が醜いのです」
リシテアは、私に嫌がらせをしてくる令嬢達のことを、一言でそう断じた。
彼女のそれは、私を思っての言葉だと理解していたから、私は素直にそのことを喜びつつも、流石にその言い方は……と訂正するように言うと──。
「お嬢様、あのような女狐どもを庇う必要などありません。彼女達は私の大切なお嬢様を傷つけたのです。できることなら、やり返してやりたいぐらいなのですから!」
と彼女は鼻息荒く言い切った。
リシテアはもの凄く美人なのだけれど、性格が少々荒っぽいというか、見た目と違ってすぐ力技に持ち込もうとするのが困ったところで。
「さぁ、そうと決まればお嬢様! 精神を鍛えるには、まず肉体から! 本日のダンスレッスンは倍増しにして頑張りましょう!」
「えっ……嘘ぉぉぉ!?」
その後、俄然やる気を出したリシテアに普段の倍以上の熱を持ってダンスレッスンをさせられた私は、疲れ切って倒れるように眠りについたのだった──。




