二度目の偶然
それからの私は、あまりセルディオ様に近づきすぎず、けれど彼の存在が視界に捉えられる範囲内にあると分かれば、本人に気づかれないようそっと視線を送る──という行動を繰り返していた。
伯爵家以上の爵位を持つ令嬢達は、人目を憚らず堂々とセルディオ様の周囲に侍っていたけれど、私と同じく伯爵家以下の令嬢達は、唇を噛んでそれを見つめるしかなく。
なぜなら、“学園内では爵位の差なく平等に”などという校則を学園側がいくら掲げていたとしても、たとえ一歩でも学園を出てしまえば、その瞬間にでも爵位の差が重くのしかかってくるからだ。
近づきたいのに近づけない──けれど抱いた恋心も捨て去れない。そんなジレンマに私は日々苦しんでいた。
そんなある日のこと。
青々と葉を茂らせた樹々の奏でる葉の音に耳を澄ませながら、ゆっくりと廊下を歩いていた私の目の前に、不意に廊下の角から人影が飛び出してきた。
「きゃっ……!」
「危ない!」
避ける間もなく飛び出してきた相手とぶつかり、当然のごとくよろめいた私の腕を、何者かがガッチリと掴む。
おかげで転倒は免れたけれど、紳士淑女ばかりが集まるこの学園で、他人にぶつかるような人がいること自体が信じられなかった。
一体誰が……。
こんな風に校内を走り回るなんて、どうせ低位貴族の男性か、平民ぐらいのものだろう。
これだから低位貴族は高位貴族の人達に馬鹿にされるのよ……と思いつつ顔を上げ、目の前にいた人物の顔を見た瞬間──。
あまりの驚きに、私は息が止まりそうになった。
「え……な……えぇ……?」
私が驚くのも当然だろう。
今現在、私の腕を掴んでいる相手──もとい、学園内の廊下で私にぶつかってきた人物は、低位貴族の男性でもなんでもない、よりによって高位貴族の嫡男であり、私の想い人でもあるセルディオ・ノヴェント様だったのだから。
「申し訳ありません。少し急いでいたもので……大丈夫でしたか?」
そう言って頭を下げるセルディオ様は、すまなさそうな表情をしていても、魅力的な仕草はそのままで。
(ああ、なんて格好良いのかしら……)
と、そんな場合ではないというのに、ついぼんやり私が彼に見惚れてしまっていると、「……さん、お嬢さん、大丈夫ですか?」という声と共にいきなり彼の顔が近づいてきて、私は咄嗟に彼の手から自分の腕を引き抜いた。
「あ、あの、私だったら大丈夫ですので……。ど、どうかお気になさらずに……」
ほほほ、と慣れない笑い方をして会釈程度のお辞儀をすると、サッと身を翻して走り出す。
その時の私の頭の中には、『校内を走るなんてはしたない』なんて言葉は、一ミリも存在していなかった──。




