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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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リンカの嘘

 奥様に妊娠の話を告げたアタシは、上機嫌で屋敷の廊下を歩いていた。


 正直なところ、妊娠なんてしていない。あれはアタシが吐いた、真っ赤な嘘だ。


 けれどアタシに上手く丸め込まれたセルディオは、奥様の目につくところでは毎日アタシを連れ歩いているし、閨だって一緒だと思わせている──実際は入口が同じなだけで、中の部屋は別々だけど。


 だから誰にも疑われない。


 実際、お腹を庇うように撫でてみせた時の奥様の反応は、期待以上だった。


 半年以上もセルディオに捨て置かれ、冷たくされ続けているというのに、それでもあんな顔ができるなんて。


 まるで心臓を抉られたみたいに青ざめて、泣きそうな顔をしていた。


 一体どれだけセルディオのことが好きなんだろう。


 ……もっとも、それはセルディオも同じか。


 あの男も病気なんじゃないかって思うくらい奥様に執着している。本人は隠しているつもりなんだろうけど、見ていれば嫌でも分かる。


 そんな二人にとって、アタシはただのお邪魔虫。


 それくらい最初から分かっている。


 それでも諦められない。


 アタシだってセルディオが好きだから。


 それに、こんな男は二度と現れない。


 顔も良くて、地位もあって、お金もある。


 そんな男が、平民に毛が生えた程度のアタシなんかを見てくれる奇跡なんて、一生に一度あるかどうか。


 もしセルディオを逃したら、次なんてない。誰もアタシなんか選んでくれない。


 だから、どんな手を使ってでも手放せなかった。


 だから利用した。


 セルディオの歪んだ恋心を。


 奥様を嫉妬させるために、屋敷ではいつもアタシを傍に置くこと。


 閨だって、奥様ではなくアタシと過ごしていると思わせること。


 そして奥様の気を引くために、人前ではアタシに優しく接すること。


 そうすれば奥様は嫉妬に耐えきれなくなって、自分からセルディオに縋りついてくる。


 セルディオはそう信じていた。


 馬鹿みたい。


 あんなに控えめな奥様が、自分から迫るわけないじゃない。


 あの人は嫉妬するより先に、自分が身を引けばいいって考える人だ。


 結婚前からずっと一緒にいたらしいけれど、セルディオは奥様のことを何一つ理解していない。


 それで「愛してる」だなんて、笑わせないでほしい。


 その言葉、中身は空っぽじゃない。


「あーあ。これで本当に奥様が出ていってくれたら、アタシは安泰なんだけどなぁ」


 ぽつりと独り言を漏らし、誰もいない廊下を歩く。


 ここまで大きな嘘を吐いてしまった以上、もう後戻りはできない。


 もし奥様が屋敷に居続ければ、いずれ妊娠が嘘だったことは必ずバレる。


 奥様自身はきっと怒らない。


 あの人は、そんな性格じゃないから。


 でも、いつも奥様の傍にいる侍女──リシテアは違う。


 あの女は絶対に許さない。


 嘘を暴いて、アタシを徹底的に追い詰めるだろう。


 その時のことを想像すると、背筋がひやりとした。


「……だから、お願い。早く出ていってよ」


 思わず本音が零れる。


 本当は、こんな嘘なんて吐きたくなかった。


 奥様が自分から身を引いてくれれば、それが一番楽だった。


 けれど、いつまで待っても屋敷を出ていく気配はない。


 だからアタシは、一番大きな嘘を吐いた。


 この屋敷で、自分の居場所を手に入れるために。


 セルディオの隣を、誰にも奪われないものにするために。


 









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